王貞治の記録達成時も赤裸々に。
八重樫幸雄がヤクルト歴代エースを語る

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

連載第7回(第6回はこちら>>)

【完成されすぎていたのが欠点だった松岡弘】

――これまで、三原脩さん、広岡達朗さんなど、八重樫さんが仕えた歴代名将について伺ってきましたが、今回は趣向を変えて、現役時代に捕手としてボールを受けたヤクルトの歴代投手について伺います。最初はやはり、大エース・松岡弘さんについて伺いたいのですが。

八重樫 松岡さんはとにかく練習好きですよ。とにかく走って自分の体を鍛えて、その上にピッチャーとしての身体能力を兼ね備えていた人だった。ストレートは速いし、変化球も完成されていた。でも、それが欠点でもあったんですよね。

――「完成されていた」というのが、どうして欠点になるんですか?

八重樫 完成されていたからこそ、どんな場面でもギリギリいっぱいのコースを狙うんだよね。だから、アンパイアとの相性が合わないと、すぐにツースリー(スリーボール・ツーストライク)になっちゃう。それでもすごいピッチャーだから、三振や凡打で切り抜けるんだけど、今から思えば「もっとラクに勝てたのにな」という気がするな。

当時を振り返る八重樫氏 photo by Hasegawa Shoichi当時を振り返る八重樫氏 photo by Hasegawa Shoichi――松岡さんの現役通算成績は191勝190敗。200勝まであと9勝でした。本当にあと一歩、あと一歩のところでの引退でしたよね。

八重樫 チームとしても松岡さんには200勝を達成してもらいたいから、3年ぐらいは現役生活を伸ばしましたよね。いっぱいチャンスはあったんです。最初は先発して6回ぐらいまで投げていたけど、次第に勝利投手の権利をつかむ5回を投げ切って後ろのピッチャーにつなぐ。でも、「絶対に松岡さんに勝たせよう」というプレッシャーがあるから、後続のピッチャーが打たれる。そんなパターンが多かったな。

――すごくよく覚えています。小学生だった僕は、いつも「サッシー」こと酒井圭一さんのことを憎んでいましたから。「あぁ、また今日も酒井が松岡の勝ちを消したよ」って(笑)。

八重樫 でもね、松岡さんの後を投げるピッチャーは本当に大変なんですよ。だからオレ、ピンチの場面のマウンドで松岡さんに「松さん、もしもここで代わったら、後輩ピッチャーがかわいそうですよ。ここはもう少し踏ん張りましょう」と言ったことがあるよ。それで、7回ぐらいまで頑張るんだけど、それでも後続が逆転を喫したりしてね(笑)。晩年は5回に1回ぐらいしか勝てなかったから、200勝は達成できなかったんだけど、本当に惜しかったよね。

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