チーム崩壊のピンチを免れた広島。會澤翼の残留がもたらす意義はでかい (3ページ目)

  • 前原淳●文 text by Maehara Jun
  • photo by Nishida Taisuke

 上位争いが佳境となった今シーズンの最終盤、満身創痍のなか、會澤はグラウンドに立ち続けた。もともと体は強いほうじゃない。正捕手として身を挺して本塁を守ってきた証であるアザは1つや2つではない。それでも「死にもの狂いでやる」と、最後まで先頭に立ってチームを引っ張った。

 広島の伝統は、新井が「家族」と表現した一体感だけではない。チームプレーの精神であり、自己犠牲であり、全力を尽くす姿勢であり、そして凡事徹底----。

 今年、巨人の優勝に貢献した丸の野球に取り組む姿勢、打席での思考、結果への探求心は広島で学んだものだ。それが巨人の若手の見本になったのは間違いない。当たり前のことを当たり前にやり続けることは、簡単なようで難しい。優勝争いができる戦力を擁しながら、Bクラスに終わった広島にとっては、あらためて"伝統継承者"の存在の重要性を感じさせられたことだろう。

 昨年、丸との交渉では提示金額の報道ばかり先行したことで、球団の慰留姿勢も尻すぼみした印象がある。その反省からか、今年はFA選手との交渉内容を黙秘し続ける。會澤との交渉も、鈴木清明球団本部長は「途中経過は言いません」と、最後まで口を閉ざした。

 FA権は選手が取得した権利であり、誰だって他球団からの評価を聞いてみたいと思うのは当然だ。実際、現代野球に求められる"打てる捕手"として、侍ジャパンにも選出された會澤の他球団からの評価は高かった。もちろん、そのことは會澤の耳にも入っていたはずだ。それでも早期決着したのは、「あまり悩むのは好きじゃない」と語る會澤の男気だった。

「今年Bクラスになって、この悔しさを晴らすのはどこかって思った時に、他球団じゃないなって......」

 球団の伝統は、選手たちによって受け継がれるものであり、よき伝統がしっかり受け継がれているチームは安定感がある。4年ぶりBクラスに甘んじた広島だが、會澤翼という大黒柱とともに再出発を切ることができる。背番号27に課せられた使命は重い。

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