古田敦也が西武戦で絶妙な判断。
クロスプレーに右足ブロックで構えた

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

【日本シリーズは勝たなければ意味がない】

――その後、3勝3敗で迎えた第7戦。3-2で迎えた8回表、ワンアウト三塁の場面。三塁走者は三塁打を放った古田さんでした。この時、古田さんは次の打者広沢さんのショートゴロの間にホームインしています。これが、いわゆる"ギャンブルスタート"ですね。前年のシリーズ第7戦での、広沢さんの甘いスライディングの反省から生まれた戦術でした。

古田 この時、僕が打った(センターへの)打球は本来ならばツーベースヒットだったんです。でも、「なんとか追加点がほしい」という場面で、クッションボールがうまく跳ね返ってこなかったのが見えたんで、イチかバチか思い切ってサードに突入してスリーベースになりました。でも、ベンチからはギャンブルスタートのサインは出なかったんです。

――せっかく、ギャンブルスタートの練習をしてきたのに、ここではベンチからのサインは出なかった?

古田 はい、サインは出ませんでした。「そりゃ、ないでしょ」と思いましたよ(笑)。ベンチからのサインが出ないから、三塁コーチに耳元で「行きますから」と伝えました。本来ならよくないですよ、サイン無視ですから。でも、興奮状態にありましたからね。

――その結果、見事にギャンブルスタートが決まり、待望の追加点を奪って4-2に。結果的にこれがダメ押し点となりました。それにしても、どうして野村監督はこの場面でギャンブルスタートのサインを出さなかったのでしょうか?

古田 実はこの前の試合に伏線があるんです。この前日の第6戦。サードランナーが広沢さんの場面でギャンブルスタートのサインが出ているんです。

――スワローズの3勝2敗で迎えた第6戦の9回表。1-4のビハインドで、チャンスが続いている場面で登場したのが代打の八重樫幸雄選手でした。この時、八重樫さんが放った打球は痛烈なレフトライナー。スタートを切っていた三塁ランナーの広沢さんが慌ててベースに戻ってタッチアップを試みるものの、結局はホームに突入はできませんでした。

古田 そう、その場面です。普通ならば犠牲フライでタッチアップをして追加点が入っている場面。でも、ギャンブルスタートのサインが出ていたから、広沢さんはホームインできなかった。この失敗があったから、ベンチからのサインはなかったんです。当時、この場面は「ヒットエンドランのサインが出ていた」と解説されていたけど、ヒットエンドランじゃなくてギャンブルスタートだったんです。

――さて、この2年間はトータルで全14試合を戦い、両チームとも7勝7敗で一度ずつ日本一に輝いています。両者の決着は着いたのでしょうか? 一体、どちらが強かったのでしょうか?

古田 うーん、よくひとまとめにして「どちらが強かったのか?」と聞かれるけど、それはもうよくわからない話でね。強いて言えば、こっちの戦い(1992年)とこっちの戦い(1993年)があったという感じですね。

――では、この2年間の戦いを通じて、古田さんが学んだこと、身につけたことは何でしょうか?

古田 やっぱり、「日本シリーズは勝たなければ意味がない」ということが一番です。言い方は悪いけど、しっかり策を練って、いかに相手を罠にはめていくかということを2年間で学びました。この修羅場の経験があったから、その後3回(1995、1997、2001年)も日本一になれたんだと思います。

(つづく)

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