鬼コーチ・宮本慎也の心残り。「1人前にできなかった選手がいる」 (2ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Kyodo News

── 若手に厳しい練習を課したのは、チームの底上げも大きな理由でした。

「どのチームもシーズン中に10人はケガをします。ほかのチームはそこを補う戦力があるから目立ちませんが、ウチは戦力がないから目立ってしまう。かといって、ケガを怖がって練習をセーブさせるのはどうかと......。練習量が多くなることで、体のケアや治療の大事さもわかってくるでしょうし、自分の体にも興味を持つようになると思うんです」

── 1年目のシーズンが終わる頃、宮本コーチに若手選手への総括をお願いしました。猛暑のなかでチーム早出練習や試合後の素振りなどをやり遂げた選手について、多少なりとも「褒め」の言葉を期待しましたが、「ようやくスタートラインに立ったところです」と厳しいものでした。

「彼らが知らなかった世界を知っただけの1年でしたからね。『今日は振らんでいいよ』と言ったら、実際に振らない選手もいました。『休み』と言われて本当に休むのか、それとも家でバットを振るのか......ほかの選手と差をつけられるのはそこなんですよ。僕らがいなくても、それを継続できるのか。そういう気持ちもあり、スタートラインという表現をしました」

── 先日、宮本コーチとお話させていただいた時、選手たちの間で競争をつくり出せなかったことを残念がっていました。

「チーム事情もありますけど......今、奥村(展征)が万全ではないなかで試合に出ていますが、ケガをした時に話したんです。『いいよ、抹消でも』と。でも彼は『できます』と言ってくれた。結局、プレーできるケガなのか、できないケガなのか。そのことで、ほかの選手にチャンスはいかない。競争ってそうやって生まれるんですよ。何人かの選手は、そういうことを理解してくれたかなと思っています。

 今年に関しては、村上(宗隆)がそうでした。今は結果を出してのレギュラーですけど、当初は競争で勝ち取ったわけじゃなかったですからね。だからこそ、ほかの選手よりも厳しく接しました。『あんなに厳しくされるんだったら、オレは特別扱いされなくてもいいや』とほかの選手が思うぐらい厳しくしました。そうしないとチームの和は保たれないだろうし、そのことで僕が嫌われるのはかまわないんですよ」

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