引退覚悟の筒香嘉智に大村巌が助言「自分の好きなようにやればいい」 (3ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Koike Yoshihiro

 翌年からの二軍監督就任が決まっていた大村は、ほかの二軍コーチとともに横須賀・長浦の総合練習場に残留。選手は筒香を含めて4人と少なかったため、じっくり話す時間があった。対話のなかで、筒香から「来年で野球界を去るかもしれません」と打ち明けられ、そこまで自分を追い込んでいるのか......と思い知らされた。そこで大村は言った。

「だったら、自分の好きなようにやってみたらいい。批判されるかもしれないし、冷たくされるかもしれない。でも、悔いは残らないから。おまえが自分で『もう崖っぷちに来ている』と思うなら、ピンチだけど、ピンチはチャンスに変えられるし、逆に、人々はおまえの名前をそろそろ忘れるだろう。

 来年には『やっぱり筒香はダメか』っていう評判になっているはずだから、そこが大チャンスなんだ。だって、みんなが寄って来なくなれば、黙々と練習する時間が増えるんだから。周りの期待が薄れるのは寂しいかもしれないけど、じつはまったく寂しくない。おまえが『やる。何を思われてもいい』って思った瞬間からブレイクは約束される。あとは、その時のために着々と進んで準備することだよ」

 嘘で持ち上げたのではなく、確信を持って伝えた。1時間半の対話によって、迷いの原因がはっきりわかったからだ。筒香自身、周囲からの期待もあってホームランを求め過ぎていたなか、「これまでどおりに引っ張っているとバッティングがダメになりそうだ」とも感じていた。同時に「広角に打ちたい」「レフトにホームランを打ちたい」という願望があって葛藤していたのだ。さらに大村は筒香に言った。

「わかった。じゃあ広角に打って、打率も残せるのが最強のバッターだ。ホームラン40発打つのもすごいけど、打率も3割を超えるから。だって、4番バッターに求められるのはホームランだけじゃないんだ。全打席、4番としてチームに貢献する選手じゃないといけない。フォアボールでもいいんだから。意識としては、できれば毎試合、打点を挙げられるように」

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る