キャリアハイの数字を残す荻野貴司。
読めばわかるファンに愛される理由

  • 永田遼太郎●文 text by Nagata Ryotaro
  • photo by Kyodo News

 9月に一時戦列を離れた際、多くのファンが荻野の早期復帰を願ったのは、単純に成績だけではない。そうした人間性もあったからだ。

 荻野の気配りは、他人に対してだけじゃない。自分自身にも人一倍、気を配る。

 過去9年間、荻野を苦しめてきたケガについては、これまで方々(ほうぼう)のメディアで語りつくされているのでここではあえて割愛するが、関節が硬くなりやすい自身の体質についても、ストレッチはもちろん、スピードラダー、ミニハードル、ダッシュといったさまざまなメニューを試合前に行なうなどして、管理してきた。

 2015年オフに知り合ったトレーナーの鴻江寿治(こうのえ・ひさお)氏との出会いも大きかったと、荻野は言う。鴻江氏が開発したコウノエベルトスパイクを2016年シーズンから使用すると、これまで悩まされてきた右ひざの水がまったく溜まらなくなった。

「ちょっとでも(ケガの)リスクが減るのなら、いろんなものを試して、よければ使ってみようかなという感じでやっています」

 ケガへの不安がなくなれば、走ることだけではなく、守備やバッティングでもいい流れが生まれてくる。

 9月11日のイースタンリーグの試合で、ネクストサークルで準備する荻野の姿をチェックしたが、ハンドルとなる左手首が今季はとても柔らかく使えているように感じられた。試合後、そのことを荻野にぶつけると、ニッコリ笑みを浮かべながらこう答えた。

「これまでは力んでボールを捕まえにいっていたのが、今年はいい感じでバットの力をボールに伝えられているのかなって感じています」

 春先には「バットを長く持ちたい」という理由で、76センチという超短尺バットを使用した。しかし、思うような結果が残せず、4月上旬には元の85センチのバットに戻し、短く持つ本来のスタイルになった。

 今シーズン結果を残せているのは、バットを元のものに戻したから、という単純な話ではない。自分が思い描いたどおりにバットをコントロールできるのは、これまでの鍛錬があったからこそである。

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