2019.09.08

借金返済のためプロ野球に「転職」。
酒豪打者・永淵洋三の数奇な人生

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki

 球団は西鉄(現・西武)。永淵さんにとっては佐賀高の先輩、東芝入社時の監督だった伊丹安広が西鉄コーチの深見安博を知っていて、紹介状を書いてくれた。戦前、伊丹は早稲田大の名捕手で、のちに監督も務めた野球人。戦時下の学生野球存続に尽くした活動をはじめ、戦後も球界全体を発展させた多大な功績により、77年の逝去後に野球殿堂入りしている。

「紹介状を持って行きました。ところが当時、中西太監督。ベンチにいても僕の練習なんか見てないです。最初から獲る気ないの、わかりました。結局やっぱり、俺には無理だなと。ただ、それでも僕はプロでやりたかったから、不合格でショックじゃないけど、その後、毎晩のように酒を飲む生活になったんです」

 酒といえば、73年から40年以上も連載が続いた野球漫画『あぶさん』の主人公、酒豪の強打者として描かれる景浦安武。作者の水島新司が主人公のキャラクターを設定するとき、モデルのひとりになったのが永淵さんで、その数々の酒豪伝説がヒントになったという。伝説の原点は、いわばヤケ酒だったわけだ。

「グラウンドから近い川崎の街にね、ちょっと、知り合いのスナックができてしまって、そこに、かわいこちゃんがおってね。その娘目当てに毎晩、通いましたよ」

 照れを覆い隠すような大きな笑い声が座敷に響いた。月給3万円の生活でスナックに通い詰めれば、次第に金がなくなる。文献資料には〈行きつけの飲み屋のツケが30万円にもなった〉とあるのだが、真相は違うのだった。

驚きの入団経緯を明かす、取材当時の永淵さん