2019.08.22

愛甲猛のプロ入り前。プリンス→西武の
「トンネル入団」計画があった

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Jiji Photo

 石山によれば、札幌プリンスホテルの開業時に幅が「大将」として携わったときのこと。建設に関わった旭川の塗装業者が専修大のOBで、野球部関係者と親しかった。それが縁で同大の捕手・中尾、投手・堀田とスムーズに交渉できた。さらに幅は中京高(現・中京大中京高)の監督だった杉浦藤文とも親しく、捕手・瀬戸山の入社につながった。

 杉浦との縁は、もともと上京の際にプリンスに宿泊したことでできたようだが、人が集まり、滞在し、会合して飲食するホテルならではの人脈が野球に生かされたのか。そこには石山でも把握し切れない広がりがあり、何よりも総支配人という立場ながら、率先してスカウトに行く幅には、野球の現場にいる人間以上の熱が感じられた。

「でも、熱は幅さんだけじゃないんです。なにしろ総支配人が全員集まる重役会議で『野球に興味のない管理職はここから出てけー!』って社長が言うんですから(笑)。しかも会議では『今年は都市対抗に出られるかどうか』がいちばんの議題なんです。私は『ここは野球会社だ……』と思いましたよ。いま振り返れば、あの当時、野球部ができて、ライオンズも持って、社員一丸でメラメラと燃えていました。普段は各ホテルでバラバラな社員が野球でひとつになって、我々のチームを応援する。みんなで勝たせようと思って、ものすごい団結力が生まれていました」

 総支配人をはじめ社員が一丸となった「野球会社」。その背景には「プロが大騒ぎするような選手を獲ったんだから負けるわけがない」という思いがあり、石山自身、創設当初から「プロ以上のアマチュアチームをつくろう」と意気込み続けた。ここには純粋な気持ちしかないのだが、同一資本のライオンズが存在する限り「トンネル入団」の疑惑は晴れない。現に、それを前提に「野球会社」の重役=総支配人が裏で動いていたことは、愛甲が証言した通り。一方、のちに根本がプリンスの選手獲得を目指した時、石山にこう言って頼んだという。

「石山さんとオレと、給料の出どころは同じだね。オレは堤さんからもらっていて、石山さんも堤さんからもらっている。だから、アマチュアの石山さんが西武に協力しても、誰も怒る人いないね」

つづく

(=敬称略)

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