2019.07.24

権藤、権藤、雨、権藤の回想。
完投した翌日に150キロなんて出ない

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki

「3点取られりゃ終わり」とは、"投高打低"の時代、打線による挽回が期待できなかったことを意味する。61年だけを見ても、優勝した巨人のチーム打率は2割2分台でリーグワースト。反対にチーム防御率は軒並み2点台で悪くても3点台前半。さらに同年の個人打撃成績を見ると、セ・リーグの3割打者は3人しかいない。ただし、首位打者=長嶋茂雄の数字は3割5分を超え、突出している。

「長嶋さんはどこ投げてもダメ。真ん中投げると、しまったぁと思ったのに内野フライなのに、いいとこ投げた〜と思ったら、アゴ出しながらでも片手で打っちゃう。ホント、目が3つぐらいついてんじゃないか、アゴ上がってるけど、耳の横に目がついてんじゃないかっていうぐらい。あれは困ったね」

 長嶋といえば王貞治との対戦も気になるが、61年は一本足打法になる前の年だ。

「まだかわいいもんです。カーブ投げたらクルッと回って尻餅ついてるぐらい。で、次の年から一本足になってボコボコ打たれましたけど、王はいいコースにいけばフェンスの手前で止まると計算できた。それが長嶋さんはまったく計算が立たない。その点でいちばん困る、嫌なバッターだったわけです」

 計算が立たない打者はどう打ち取っていたのか。タイミングを外すしかないのだろうか。

「外す〜なんていうよりも、結局、自分の持ってる球を力いっぱい投げれば、外れてしまうわけです。真っすぐと同じように腕を振って投げるとカーブがドローッと落ちる、というふうに。だから、2年目にちょっとバテてきたときには、真っすぐのスピードを変えるとかはやりました。今で言うチェンジアップですけど、握りは変えないです。困り果てた上で、真っすぐで抜く球を覚えたんですね。

 やっぱり、バッターにとっていちばん嫌なのは、スピードを抜かれることですから。真っすぐとわかってて、真っすぐがこない。カーブとかスライダーは緩急であるけれど、軌道が曲がるからバッターはタメられる。でも、チェンジアップは真っすぐの軌道でくるから遠近感とスピード感を計り知れないわけですよ」

 いかに力を抑えながら、打者を打ち取るか。それがそのときのテーマだったようだ。