光る「コミュ力」。DeNAの中心にいる
正捕手・伊藤光の意外な一面

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi
  • photo by Kyodo News

 学生時代から山﨑とバッテリーを組む嶺井との相性を考慮してのことではあったが、その後、チームは逆転負けを喫してしまった。伊藤にしてみればイニング途中での屈辱的な交代。試合後、唇を噛みしめ、悔しさをにじませる伊藤の姿が印象的だった。

 あの時のことを伊藤が振り返る。

「連敗中でしたし、監督もコーチも何とかしたいという気持ちからの決断だったと思います。ただ僕としては、最後まで試合に出て勝ちきりたいという思いがあったので、すごく悔しかったですし、自分の力のなさを痛感しました」

 その後も伊藤は、山﨑が登板すると同時に嶺井と交代させられるようになった。無念さは募るが、こういった経験は初めてではない。オリックス時代は、チーム事情だったとはいえ捕手の座を追われ、内野を守ることもあった。

「こういう時に大事なことは、決して下を向かないこと。いつチャンスが来るかわからないし、その時のために、試合に出ていない時もすべて勉強だと思って、自分に生かそうという気持ちがありました」

 再びセーブがつく場面で山﨑と組むチャンスが訪れたのは、5月31日のヤクルト戦(横浜スタジアム)。ここで山﨑と伊藤のバッテリーは、見事に打者を3人で仕留めた。

「絶対に3人で終わらせようと思っていたし、しっかり準備したこともあって、いい結果を出すことができました」

 この試合以降、伊藤は交代を命じられることなく、山﨑のボールを受け続けている。

 果たして、伊藤とはどんな捕手なのか。山﨑が次のように教えてくれた。

「あの時の光さんの交代は、僕がやるべきことをできなかったから起こったことで、申し訳ない気持ちがあります。ただ今は(バッテリーを)組めているので、いい方向に進んでいるのかな。光さんはとにかく経験が豊富で、ピッチャーの気持ちをわかってくれる。僕は基本的に投げたいボールを投げさせてもらっているのですが、光さんは『なぜあの時、このボールを投げたのか』『自分はこう思う』といったように、常にコミュニケーションを取ってくれる。試合後は必ず『次はこうしよう』と話をしますし、僕自身、不安を抱えたまま明日に向かうわけにはいかないので、すごく助かっています」

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