人生初の大スランプにおさらば。今永昇太は複数の新感覚をつかんだ (2ページ目)

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi
  • photo by Kyodo News

 果たして、その新しい感覚とは何なのか?

「(伊藤)光さんのミットに自分が入っていくというか、まるで狭いビルの隙間をスッと抜けていくような不思議な感覚なんですよ。だから投げミスは少なかったですし、投げミスがあったとしも強いボールがいっていた。セットでもクイックでもランナーがいても同じ感覚で投げられるんです」

 ここまで順調に勝利とイニング数を重ね、5月は初の月間MVPを獲得した。今永の投球において目を引くのは、やはりストレートのキレだろう。今永いわく「昨年は1球も投げられなかった真っすぐが、今年は投げられている」と言う。

「ピッチングの根本は両サイドの真っすぐ。内外にきっちり決めることによって、バッターは甘いところから曲がってくる変化球に手を出してしまうし、あるいは追い込まれて厳しいゾーンのボールを振ってしまう」

 どんな投手にとってもストレートが生命線ではあるが、今永はなぜ質のいい真っすぐをコンスタントに投げつづけることできるのか。ちなみに、今永のトラックマンデータによるストレートの回転数は球界トップクラスの2500前後だが、本人によればこの数値は昨年と差はないという。

「一番は"肩"で投げず、全身を使って投げていることでしょうね。どうしても肩で投げてしまうと力んでしまいますし、すぐにヘタってしまう。投げたあとの張りと疲労感も違います。イメージとしてはひじから先を使うこと。ひじを支点に投げることを意識したらコントロールも安定しました」

 今永は「骨で投げる」と独特の感覚で表現しているが、これは関節の角度を一定にすれば同じ場所に投げられるはずだという考え方に起因しており、これもまた自分の調子を測るバロメーターのひとつになっている。

「あとボールのキレを生んでいるのは、リリースの際に指先でボールを押し込む感覚です。真っすぐ待ちのバッターにも、躊躇なく投げ込めている。これもまた今シーズン、新たにつかんだ感覚です」

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