ロッテ・種市篤暉は「ただの東北人じゃない」。今季、エース級の活躍 (2ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Kyodo News

 もう現役を上がって何カ月が経っていたので、前もって長谷川菊雄監督に種市の様子を聞いておいた。

「県大会で負けた翌日から、1日も欠かさず練習に出てきていますよ。現役の選手たちよりも練習しているぐらいですから」

 その話を聞いて、「東北人らしくないな......」と思った。

 私自身、東北人だからわかるのだ。新チームになっても、毎日練習に出てくる。これはまさしく"東北人"である。しかし、現役より練習している......これは"東北人"じゃない。

 センバツを目指して練習に励む下級生に遠慮して手伝いにまわるのが、良くも悪くも、東北人の奥ゆかしさというものだ。もしかして、ほかの土地からはるばるやって来たのかと思って聞いたら、生まれも育ちも青森・下北だという。

 グラウンドを見たら、種市が新チームのエースを横にしたがえ、ブルペンの真ん中で気持ちよく腕を振っていた。とにかくフォームが見事だった。長身からビュンと投げ下ろして、フィニッシュで体がばらつかない。

 種市の投げる真うしろから見せてもらったが、ストレートの角度がすばらしかった。とくに、右打者のアウトコース低めに決まるボールは、すでにプロの球だった。

「次、フォーク」と球種を変えようとしたから、思わずおせっかいで言ってしまった。

「ダメダメ! いいボールがいったら、それを何球も続けて、リリースの感覚とか、球筋を覚えちゃうんだよ」

 アドバイスをしっかり受け取ってくれたようで、「よし、ストレート!」と気合いを入れ直した表情でこっちを見て、種市が投球を続けた。驚いたのは、そこから8球続けて外角低めに投げ込んだことだ。

「このピッチャーただものではないな......」と思っていたら、その矢先、今度はフォークに度肝を抜かれた。ただ落ちるだけじゃなく、構えたミットに決められる。高校生でフォークをこんなに操れるピッチャーを見たのは初めてだった。

 ストレートもフォークも一級品。これだけのものがあれば、プロでも大丈夫と言いたいところだったが、不安がないわけではなかった。そのことを長谷川監督にぶつけてみた。

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