2019.06.05

全米ドラ1男がソフトバンクへ。
MLBとの仁義なき契約戦争が始まる

  • 阿佐智●文 text by Asa Satoshi
  • photo by Kyodo News

 また、かつてイチローらとともにシアトル・マリナーズのキャンプに参加した現・楽天二軍の佐藤義則ピッチングコーチのもとにマイナーの選手が指導を求めて殺到したという報道があった。佐藤コーチも「こっちの選手は細かい指導を受けていない」という意味の発言をしているように、選手をあまりいじらないアメリカ流の指導と、丁寧に教える日本流の指導では明らかに違いがある。

 だからといって、MLBの育成システムが日本に比べて「雑である」と言うことはできない。”育成”という部分だけを考えると、MLBドラフトで上位指名が確実視されていたるスチュワートなら、週間、月間、年間と、期間ごとに球数制限がなされるなど、日本以上にきめ細かい育成システムのもとでプレーができていただろう。

 三軍まで保有し、育成選手の多くが一軍の戦力になるなど、育成に定評のあるソフトバンクだが、巨額の契約金を見てもスチュワートを育成の対象とは見ていない。あくまで戦力としてスチュワートを見ているはずだ。その点では、スチュワートに関しては、日本よりもアメリカの方が大事に育てられる可能性は高いと思う。しかし、彼の将来にとってどっちがいいのかというのは、また別の話だ。

 いずれにしても、今回のケースは今後の日米のスカウトのあり方の試金石になるものである。MLB側からすれば、NPB側が”パンドラの箱”を開けたことになり、今後、日本のアマチュアトップクラスの選手の獲得に際して、ためらいが少なくなり、スカウティングに拍車がかかるだろう。

 またアメリカのプロスペクトたちの視点は、”ハンバーガーリーグ”と呼ばれるマイナーを経由せず、メジャーの舞台に立てるルートができることで、少なからずキャリアの選択肢は増えることになる。

 近年、契約保障のないアメリカを嫌い、シーズン途中でのクビの可能性が低い日本の独立リーグでプレーをするラテンアメリカ人の選手は増えている。また、職業として考えた場合、NPBの一軍で活躍すればメジャーほどではないが、相応の報酬を手にすることができ、二軍であってもマイナーより環境も待遇もいい日本球界は、アメリカよりも”セーフティーネット”が整っていると言える。

 そういう意味では、スチュワートの今後次第で、アメリカから一旦、日本球界を経由してメジャーに進もうとする選手も出てくる可能性は大いにある。

 今回のスチュワートのソフトバンク入りは、世界の野球界における新たなレジームの胎動を告げるものになるかもしれない。

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