斉藤和巳が松坂世代に抱いたジェラシー「20勝してもまだ足りない」 (3ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News

 プロ1年目の開幕カード(第3戦)で先発登板し、初勝利を挙げた杉内にとって、斉藤は「たくさんいる投手のひとり」に過ぎなかった。

「とにかく自分のことで精いっぱいで、まわりとコミュニケーションを取る余裕はなかった。和巳さんはきっと、他人に興味のないタイプだったと思います。1年目の途中に僕が二軍落ちした夏くらいに、和巳さんが一軍で投げているのを家電量販店のテレビで見た記憶があります」

 杉内が斉藤の存在を認めたのは2003年だった。

「まだ"飛ぶボール"の時代だったのに、和巳さんが投げれば勝つ。負けん気の強さとか気迫とか、そういう部分は『すげー! かっけー!』と思いました。和巳さんは僕にとって、『投げれば勝つピッチャー』でした。和巳さんがタイトルを総なめにしたあと、ピッチャーで20勝したらこれだけの名誉が手に入るんだと思い知らされました」

【練習中も鬼気迫る表情だった】

 斉藤がジェラシーを感じていたことを告げると、「本当にそんなことを言ってるんですか? もちろん、こっちは感じましたけど」と言う。

「和巳さんには圧倒的なサイズがあって、本気でうらやましかった。あの高さから150キロのストレートとフォーク、カーブを投げられたら、そりゃバッターは打てんよな、本当にずるいなと。

 パ・リーグのいいバッターもみんな打てなかった。僕みたいなタイプは、いろいろなことを考えて、全力で投げないと抑えられない。なのに、和巳さんはあっさりと抑えているように見えた。『簡単に勝つなぁ』という印象でしたよね」

 だから、自分たちにジェラシーを感じていたことが信じられない。

「あの人がジェラシーだなんだと言うのはおかしい。だったら一度、僕の身長で投げてみてほしい」

 杉内も和田も、プロ野球の中では大きいほうではない。185センチを超える大型投手はいくらでもいるが、コンスタントに勝ち星を挙げられる一流選手は意外と少ない。コントロールに難があったり、故障が多かったりと、何かしらの弱点があるものだ。

「和巳さんは大きいけど、コントロールもよかったし、フィールディングも牽制もうまかった。それに、本当に黙々と練習していました。絶対に手を抜くことはなかった。おそらく、肩に不安があったせいで『いまできることは全部やろう』と思っていたんじゃないでしょうか。練習中も鬼気迫る表情でした。こんなふうに練習しないと、あれだけのピッチャーになれないのかと思ったものです」

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