黒田博樹から受け継がれる「カープ魂」。広島を陰で支える男の証言 (4ページ目)

  • 前原淳●文 text by Maehara Jun
  • photo by Nishida Taisuke

―― 堂林翔太選手ら野手も通っているとうかがいました。

「堂林選手は15回くらい通っていただいて、安定度が増してきたと思います。ただ、投手と野手は違います。投手は自分のパフォーマンスがそのまま結果に直結しやすいポジションですが、打者は自分の動きができていても、試合では投手の球への対応力が求められます。その分、投手より打者のほうが、成果が現れるまで時間がかかるケースがあります」

―― ほかにも、能力を最大限発揮できていなくて「もったいない」と思った選手はいますか。

「ほとんどです。逆に言うと、そうでなければうちに来る必要はないわけです。うちに来る選手は、(持っている能力を発揮し切れていない)もったいない選手ばかり。ただ、才能はすごい。だから持ち味を温存したままでの調律でいいんです。そのなかで、選手には心地よさや喜びを感じでもらえれば......と思っています。それ以上のことはできません。名器を奏でるのは選手たちであり、見る者を感動させるのも選手たちなんです」

―― プロアスリートでも、誰もが正しい体の使い方ができているわけではないのには驚きました。

「昭和世代のプロ野球のレジェンドたちは、下半身の扱い方の重要性をずっとおっしゃってきました。今は昔と比べて、パフォーマンスは確実にスピードアップしていますし、選手のサイズもアップしている。大谷翔平選手(エンゼルス)がいい例でしょう。時代は変わり、上達のための情報が集めやすくなり、大谷選手のようなほぼ完璧なメカニズムを持ちつつも、サイズアップとスピード化が進んだ結果、世界をリードするような日本人選手が出現するまでになりました。ただ、全選手がそうなったのかというと疑問符がつきます。

 スポーツパフォーマンスにおいてのうまさとは、全身の連動性であり、運動の効率化のことです。昔はあぜ道や田んぼ道を裸足同然で走るなど、置かれた環境下で自分のカラダをたくみに使いこなしていました。でも、今は交通網が発達して、道路も舗装されるなど、生活様式は大きく変わりました。だから、自分のカラダ、とくに下半身をうまく使うための訓練を経験できずに、サイズだけ大きくなるスポーツ選手が増えています。我々が今やっている操育というプログラムは、ひと昔前なら不要だったかもしれませんが、今は必要な時代になりました。プロアスリートだけでなく、子どもの頃からのカラダの操り方を育む試みが、いろんな競技に通じていくものと考えています」

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