岡林洋一VS打者・石井丈裕。勝負を決めたのは石毛宏典の声だった (3ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

――相手の先発は先ほど名前を挙げた石井丈裕投手でした。

岡林 めちゃくちゃコントロールがいいピッチャーですからね。「点は取れそうにないな」と思いながらマウンドに上がりました。でも、4回にうちが1点を先制したので、「この1点を守り切ろう。完封しよう」、そんな思いで投げ続けましたね。試合が始まったら、体調のことは何も気になっていませんでしたから、「行けるところまで投げるぞ」という思いだけでした。

――試合は4回裏にスワローズが相手ミスに乗じて1点を先制。試合は1-0のまま7回表に進みました。味方のエラーからツーアウト一、二塁のピンチを招いて、相手打者は投手の石井丈裕。この場面を振り返っていただけますか?

岡林 この場面は、ベンチでメガホンを持って声援を送っている石毛(宏典)さんにやられました。もう、石毛さんは必死なんです。マウンドにいても、すごい圧を感じました。石井さんに打順が回ったとき、「代打を出してくれたらありがたいな」って思いました。どうしてかというと、「僕がこのピンチを切り抜ければ、次はうちにチャンスが来る」と思ったからです。でも、代打は出ない。「そりゃ、そうだよな」と思っていたら、三塁側ベンチから、石毛さんが必死に声援を送っているのが見えました。それはもう、本当にすごい気迫でしたから。

「1992年は僕を成長させてくれた忘れられない一年」

――これまで、この連載でお話を聞いてきた西武・森祇晶監督、ヤクルト・野村克也監督、そして石毛さん、石井さん、みんなが「この場面が忘れられない」と言っていました。結果的に石井選手が放った打球は、センター・飯田哲也選手のグラブをかすめてポトリと落ちて、同点打となりました。

岡林 もちろん、僕もこの場面は忘れられません。あの打球は、普段の飯田なら捕れたと思います。正直、「捕ってくれよ」という思いもありました。でも、石毛さんの圧を感じた時点で、この勝負は僕の負けでした。同点に追いつかれたのは悔しかったです。でも、うれしかった思いもあるんです。「あんな強い西武をここまで本気にさせているんだ」っていううれしさです。でも、この試合はホームゲームでしたから、自分が抑えさえすればサヨナラ勝ちもあるわけです。そういう意味ではすぐに「このまま同点に抑えて、2-1で勝てばいいんだ」って切り替えられましたね。

映像を見ながら当時を振り返る岡林氏 photo by Hasegawa Shoichi映像を見ながら当時を振り返る岡林氏 photo by Hasegawa Shoichi――結局、この試合も延長戦となりました。スワローズは7回、8回、9回とことごとくチャンスを潰して、追加点を奪えない。どんな心境で投げ続けていたのですか?

岡林 もちろん、点は取ってほしいですよ。でも、「まあ、仕方ないか」という思いのほうが強かったです。試合終盤には、「もうすぐ日本シリーズも終わるんだな」という思いが強くて、「もうちょっと長くやりたいな」と思って投げていました。

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