「なんじゃこりゃ!」とキャンプで驚き。2球団で見つけた4人の逸材 (3ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 高山コーチが左打席に立ち、インコースの球をリクエストした。

「ボールでいいよ。インコースはボールでいいんだから」

 見せ場と思ったのだろう。荒西が「よしっ」という顔になって、高山コーチの懐に投げ込もうとする。社会人時代はそこが"必殺ポイント"だったはずだ。だが腕を振った瞬間、若干ヘッドアップしたように見えた。リリースに力が入ったのだろう、珍しくシュート回転したボールが真ん中に入った。

「カーン! 柳田(悠岐)だったら180メートルぐらい飛ばされとるわ」

 高山コーチの口から"快音"が発せられると、荒西は思わず頭を抱えた。それでも即一軍で使えるだけのキレ、制球力は確信できた。

 その荒西が投げる3人向こうで、小柄な左腕が叫んだ。

「ああっ!」

 糸を引くような快速球だったのに、納得できないといった表情を見せていたのが、JX-ENEOSからドラフト6位で入団した左澤優(172センチ、75キロ)だ。

 横浜商大時代は1年から先発、リリーフで登板するなど、監督から高い信頼を得てマウンドに上がっていた。左澤のいいところは、ブルペンだからといって妥協しないところ。常に高い目標を設定して、自分を磨いていく姿は学生時代と変わっていない。

 スライダー、チェンジアップ、スプリット......持ち球すべてをミットにぶつけて、プロ19年目のベテラン捕手・山崎勝己が「ナイスボール!」と褒めてくれているのに、左澤は「ああっー!」と無念そうに天を仰ぐ。

「左澤はENEOSに行ったのがよかったんだなぁ。ウチにいた頃は体も細かったし、いいかげんな筋肉しかついてなかったのが、ENEOSで心も体も大きく、図太くしてもらったんだろう」

 横浜商大の佐々木正雄監督も教え子の成長に目を細める。

 私は「プロでやれるのか、それとも厳しいのか。その境目はなんですか?」とたまに聞かれることがある。「いい選手だな」と感心させられるぐらいじゃ、まだ足りない。「なんだ、コイツ!」とビックリさせてくれること。その才能溢れるプレーで、我々を驚かせてくれるかどうか......境目とは、そこなのではないだろうか。

 今回紹介した選手たちは、間違いなく「驚かされた」選手たちだ。

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