「俺を地獄に落とすのか」田尾安志は楽天監督就任のオファーに困惑した (4ページ目)

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko
  • photo by Kyodo News

 結果が出ないことによる圧力はむしろ意外なところから来る。オーナーの方から部下を介して4月の段階で若手を使えという要請が来た。田尾は使いたいのはやまやまだが、"今、使える若手が見当たらない"と返答した。

「連敗してる監督がなぜ若手を使いたがるかといったら、『若手を育成してます、ファンの人たち、何とか我慢してください』というのがひとつの言い訳になるからです。でも、それが『こんな選手を使うのか?』となるとチーム内がバラバラになる。プロは裏方さんも含めて生活がかかっているんです。やっぱり、『こいつを使った方が勝つ確率が高いだろう』というのはわかるんです。そういうのを僕は見てきたので、若いという理由だけで使うというのはできない。監督の仕事というのはベストナインをどれだけグラウンドに置けるかということなんです」。選手起用は監督の専権事項である。 

 さらに4月に11連敗した時に、オーナーはヘッドコーチの山下大輔と打撃コーチの駒田徳広を二軍に落とす指示を出した。田尾は激怒する。

「2人のコーチが駄目で負けているわけじゃないから、それはおかしい」

 そもそもが他チームとの間に動かしがたい戦力差があるのだ。精一杯抵抗したが、人事は決行された。自ら招聘したコーチが連敗の責任を取らされることに納得のいかない田尾はすぐに辞表を書いた。「自分だけ生き残るわけにはいかない」。妻も賛同した。「『これで(辞表を)出さなかったらパパじゃないよ』と女房も言ってくれました」。

 辞表を提出しようと持って行ったが、球団から山下が二軍監督を引き受けたことを伝えられ、その矛先を収めた。山下が田尾の気持ちを汲んでチームに残ってくれたのである。

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