経験豊富で欲のない人。元名参謀が語る「ヘッドコーチに必要な資質」 (2ページ目)

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi
  • photo by Koike Yoshihiro

 作戦面でも監督のサポート役となる。たとえば代打の場面で、A選手は相手投手と相性がよく、B選手は相性はよくないが調子がいい。そこで監督が「ヘッド、どっちがいいと思います?」と聞いてくる。その時、迷わず答えなければならない。それがヘッドコーチに求められる仕事である。

「ここはAで行きましょう。Bは調子がいいから(試合)後半にとっておいても使いどころがあります」とか、「Aは相性はいいですが、調子自体が落ちています。ここはBを先に使った方がいいと思います」といったように明快に答えないと、監督は迷ってしまう。

 もちろん、監督だって選択肢は頭のなかにある。ただ、わずかな時間で判断しなければならないとき、監督にも迷いが生じることがある。そんな時、ヘッドコーチは判断材料を提供し、監督の後押し役を務めるわけだ。当然、最終決定は監督だが、ヘッドコーチとの考えが一致している時は、不思議とチームの調子はいい。

 私は野手出身だったため、投手については投手コーチに一任することがほとんどだったが、近鉄時代、(投手コーチの)小林繁とはウマが合った。遠征先でも食事をともにして、その時々の投手陣のコンディションを聞き込んだりしていた。

 いつだったか、こんなやりとりがあった。ある試合で前半に大量リードを許してしまった。すると小林が「ヘッド、今日のゲーム捨てましょう」と言ってきた。投手コーチの言い分は、「この試合はどんなにあがいても追いつけない。なので、投手の無駄遣いはしたくない」というわけだ。その理由は理解できる。

 しかし、そんなことを投手コーチが監督に言えるはずもない。監督というのは、どんな試合であっても、どんな展開になっても勝つことを考える。極端な話、全試合勝ちたいというのが監督の性分である。

 そこで小林には、逆転しそうな展開になった時の備えだけは念を押し、ベンチで監督が投手を代えたがりそうにしていたらあれこれと言い訳して引き延ばし、結局、大量点を奪われたが先発投手を7~8回あたりまで投げさせた。監督がどこまで察知していたかはわからないが、監督と各部門のコーチとのクッション役もヘッドコーチの重要な仕事である。

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