ドラ2指名で「早い」と叫び。
ホークスの153キロ右腕は考える原石だ

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Kyodo News

 ご自身も"野球小僧"だった父・貴康さんに教わった投げる基本が、投手・杉山に深く影響を与えていた。

「ヒップファーストで踏み込んでいって、でも上体はまだ軸足の上に残しておいて、そこから全身のしなりを利用して大きく腕を振る。言葉で表現すると、それが理想の形なんです」

 笑うと目がなくなってしまう俳優のベンガルさん似の笑顔。"大きな子ども"みたいなヤツかと思っていたら、しっかり"自分の野球"について語れるから驚いた。

「腕を振るっていうよりも、肩の関節というか、腕の根元から振り下ろすように意識しています。背骨から腕が生えているっていう感覚をイメージできるんです」

 そんな息子を父はこう励ましたという。

「そんなに大きくなくても150キロ投げるピッチャーがいるんだから、お前みたいなピッチャーが体を大きく使って投げたら160キロだって投げられるぞ!」

 その言葉を励みにトレーニングを重ねたのだろう。杉山のボールは鉛を受けているような重さがあった。痛くて泣きそうになるような"剛球"がミットに容赦なく突き刺さる。しばらくは、手でもなく、腕でもなく、肩が痛かった。「このストレートの破壊力は本物だ」と、明確な記憶を刻みつけられた。

 それだけに、高校を卒業して社会人での3年間の成長がすごく楽しみだった。

 社会人2年目の秋、昨年の日本選手権での試合前。遠投をする杉山の投げる姿を見た時、体重がうしろにも前にも乗り切れない"立ち投げ"だった。それが今年、春から先発でも投げていると聞いて、さらにJR西日本の"補強選手"として都市対抗に出てきたから、それだけの投手になったのだろうと胸が躍った。

 その都市対抗で準々決勝を狙ったJR東日本戦。杉山は0-1から一挙6点を奪われた8回にマウンド上がると、後続を簡単に打ち取り、自己最速の153キロまでマークしてみせた。決して力を入れて投げているわけではない。それでもこれだけのスピードボールがいくのだ。

「いちばん欲しいのは、1球で打ち取れる技術です。スピードではありません」

 高校生だった杉山がこんなことを言っていたのを思い出した。

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