ヤクルト投手陣の秋は脱スパルタ。「再現性」をテーマに飛躍を誓う (2ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • 山下令●写真 photo by Yamashita Ryo

 ほかにも、目を閉じたままラインの上で前進と後退を繰り返すものや、片足で真っすぐに立つトレーニングなど、基礎動作の反復を黙々とこなしていく。

「去年までは『とにかく走れ』でやってきましたが、今年は"再現性"をテーマにやっています」

 田畑コーチは、静かな練習風景についてこう説明する。

「脳から体への正しい伝達。正しい動き、正しい姿勢を意識したキャンプです。再現性が実現できれば、その投手が正しいフォームで投げられる時間が多くなる。ランニングも、外野のポール間走(180m×10本)を毎日やっていますが、タイムは求めていません。同じフォーム、同じ腕の振り、同じストライド。180mを同じ歩数で走れば、いつも同じ動きになる。

 自分でその感覚を覚えていけば、"体幹"も意識できるでしょうし......そうなれば、意識的に安定して自分のボールを投げられるようになる。このキャンプは、シーズンを通してそれを実現できなかった選手ばかりなので、そこが一番の狙いです」

 前田真吾トレーナーは「自分の感覚を研ぎ澄ますというか、自分の体との対話ですね」と言い、こう続ける。

「タイム切りがメインだった時は、どうしても力んで走ってしまい、その影響で体が揺れたりしていた。基礎動作を繰り返すことでバランスがよくなっていますし、普段のランニングでも姿勢がよくなってきています」

 投手陣が練習する"マドンナスタジアム"は音楽が流れることもなく、静かな時間が流れていたが、宮本慎也ヘッドコーチが姿を見せ、投手陣にノックを始めると、一気に空気がピリッと引き締まり、緊張感が生まれるのだった。

「おいおいおい、こんな打球も追いつけんのか。わかった、野手に言っとくわ。お前の投げる時はボールを追わんでいいって」

 宮本ヘッドの容赦ないノックについて、風張はこう話す。

「横に振られたりしましたけど、あれは体力強化のためでなく、最後のもう一歩を大事にしろということなのかなと......。ピッチャーでもゴロをあとひと伸びすればゲッツーを取れることがあります。僕はそう理解しました。今回のキャンプは体力面で追い込まれるところまでやっていないので、ひとつの練習も無駄にできません」

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