なぜ広島は甲斐キャノンに屈したか。名コーチが説く「移動日の重要性」 (3ページ目)

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi
  • photo by Kyodo News

 そこで冒頭で記した"移動日"をどう使ったのかにつながる。2試合の内容からデータを洗い直し、作戦の変更など、これからの戦いを考えるための貴重な時間なのだ。

 2試合で3つの盗塁をすべて完璧に刺された広島とすれば、3戦目からは自重することも選択肢に入ってくる。とはいえ、ランナーを進塁させる手段は盗塁だけではない。犠打、エンドラン、進塁打と作戦はいくつも考えられるし、実際、広島打線はそうした盗塁以外の機動力が使える選手が多い。しかし、そういう仕掛けは見られず、最後まで盗塁にこだわった......というより、意固地になっているように思えた。

 広島は最初の2試合を1勝1分で終えて福岡に乗り込むことになった。普通に考えれば、「福岡で3連敗しても広島に戻って来られる。1勝2敗ならタイで戦える」と計算する。あくまで私の想像だが、ここで油断が生じたのではないだろうか。

 つまり先勝している分、盗塁死というマイナスがあっても「自分たちの野球を続けよう」という気持ちになってしまっていた。これが連敗していたり、タイになっていたら戦略を練り直していたはずだ。言い換えれば、地元で勝ち越して福岡入りしたため、移動日という「頭を冷やして冷静になれる時間」を有意義に使えなかったのではないだろうか。

 というのも、以前、パ・リーグの関係者からこんな話を聞いたことがある。「甲斐に警戒させてしまったら、盗塁は成功しない」と。つまり、甲斐が走者を警戒した時点で、盗塁を成功させるのはかなり難しいというのだ。「もし成功するとしたら、意外な選手やセオリーではないカウント。つまり、甲斐の警戒が弱まっている時でなければ難しい」とも言っていた。

 そんな難攻不落の相手に、広島は最後まで自分たちの野球にこだわった。「短期決戦はシーズンと違う戦い方がある」という言葉があるが、広島は最後まで違う戦いができなかった。いや、しなかった。これが敗因になったと言ったら言い過ぎだろうか......。

 余談になるが、広島は甲斐の送球時のビデオをどう撮影し、分析したのだろうか。そしてソフトバンクも田中広輔や菊池涼介をはじめ、走れる選手の撮影をしていたはずだ。お互いがどれだけ情報を集め、どんな分析をして試合に生かしたのか。あるいは、そこにも大きな違いがあったのかもしれない。

(つづく)

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