なぜ広島は甲斐キャノンに屈したか。
名コーチが説く「移動日の重要性」

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi
  • photo by Kyodo News

 たとえば、右打者が打ち気にくる2ボール1ストライクでどんな球種で攻めてくるか。この状況でシュート系の球を多用するバッテリーが、じつは嫌だった。バッターは打ち気にはやっているから、手を出しやすい。ストレートと思ってスイングしたが、シュートで詰まらされた......こんな光景を何度も見てきた。

 要は、こうした状況で攻めの配球をするのか、それともかわす配球をしてくるのか。そうしたものは捕手の考えとしてデータに表れる。一見、単純なデータに映るかもしれないが、じつは利用価値が高いのだ。

 そして捕手でいうなら、肩の強さも大事な情報である。

 今回の日本シリーズで広島の機動力完璧に封じ、一躍"時の人"となった甲斐だが、正直、ここまで凄まじいとは驚きだった。

 甲斐の今シーズンの盗塁阻止率は4割4分7厘で断トツの12球団トップ。もちろん広島もそのあたりの情報は入っていたにもかかわらず、なぜ一度も盗塁を成功することができなかったのか。

 投球を受けて捕手が送球し、二塁ベースカバーの野手のグラブに収まるまでの時間をポップアップタイムというが、甲斐は1.74秒前後と突出した速さだ。広島とすれば、シリーズ前から「簡単に走れない捕手」という認識はあったはずだ。

 しかし、広島にとって盗塁は欠くことのできない戦術であり、得点源とも言えた。おそらく広島の緒方孝市監督はこう考えていたのではないか。「甲斐の肩と勝負して、とことん走らせる。成功すれば、チームにいい流れがくるはず」と。

 事実、シリーズ中、東出輝裕コーチや選手らは「(盗塁を)仕掛けることで攻撃の幅を広げられる」と語っていたように、あくまで盗塁にこだわりを見せていた。

 しかし広島は、初戦、第2戦と合計3回盗塁を試みて、すべて刺された(そのうち1回は捕手・高谷裕亮)。それも間一髪のタイミングではなく、悠々アウト。ここで肝心なのは、この3つの失敗を広島の首脳陣はどう考えたのかということだ。

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