日本一も経験した3人のトライアウト。彼らを突き動かすものとは... (2ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • 繁昌良司●写真 photo by Hanjo Ryoji

2007年には最優秀防御率のタイトルを獲得した成瀬善久2007年には最優秀防御率のタイトルを獲得した成瀬善久「史上最大の下剋上」──この言葉とともに、プロ野球ファンの脳裏に刻まれているシーズンがある。

 2010年、シーズン3位からCSを勝ち抜き、日本シリーズ進出を果たしたロッテ。中日との日本シリーズでは、史上初となる3位からの逆転日本一を果たした。

「3位からの戦いで、失うものはないという気持ちでやれました。日本一になれるのは、1年で1チームだけ。いい経験をさせてもらったと思っています」

 そう当時を振り返ったのは成瀬善久(なるせ・よしひさ/前ヤクルト)。2007年に16勝を挙げ、先発ローテーションを掴み、エース格となった左腕は、この年も1311敗の成績を残し、チームを支えた。

 2014年オフにFA権を行使し、ヤクルトへ移籍。3シーズンプレーしたが、挙げた勝ち星はわずかに6。「球界屈指の左腕」とまで呼ばれた実績を考慮すると物足りない数字だった。今季は一軍登板0に終わり、戦力外通告を受けた。

 一度は日本一にまで上り詰め、個人としても最優秀防御率のタイトルも獲得した。"区切り"をつけてもおかしくないベテラン左腕は、何に突き動かされたのか。

「今シーズン、バッターの反応を見ていて、『真っすぐがよくなったんじゃないか』という手応えがあったんです。(フォームや調整法など)とくに何かを変えたわけじゃないんですが、下半身に乗って腕を振れるようになってきたのかな、と。やり切った感もありませんし、それがまだ続けたいと考えた一番の理由ですね」

 横浜高(神奈川)時代の恩師である渡辺元智前監督、自身のフォームの礎を築き上げてくれた小倉清一郎前部長の両氏に、戦力外通告を受けたこと、トライアウト受験を考えている旨を伝えたときの言葉も後押しになった。

「報告したときに、『まだ満足してないんだろう?』と言われました。『形がどうあれ、自分が納得するまでやり切れよ』と」

 わずかながらも感じられた「真っすぐ」への可能性。トライアウトで、その確信を得る。こう意気込んで臨んだが、打者3人と対峙し、2本の二塁打を浴びた。

「『しっかり真っすぐを投げられる』というところをアピールしたいと思っていたので、そこに対しては満足しています。持っているものは出せたと思うし、結果はよくなかったですが、そこを含めて受け止めたいと思う」

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