2018.10.24

【イップスの深層】森大輔が驚愕。
ありえないボールの握りをしていた

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Nikkan sports

 フォームを動画で撮影し、イップスになる前のフォームと見比べてみる。そこにはまるで別人の投手がふたり写っていた。「自分が自分じゃなくなる」とは、そういう意味だった。

 サイコセラピストに個人的に師事し、胸の内をすべてさらけ出したこともある。さまざまなアドバイスを受け、自分なりに取り組んでみたが、効果は感じられなかった。森は言う。

「チームには僕の他にもイップスに悩んでいる選手がいましたが、なかには乗り越えた選手もいました。僕は心のどこかで『自分は乗り越えられない部類』という思いがあったのかもしれません」

 二軍の公式戦であるイースタンリーグには、プロ2年目に1試合、わすか1イニングに登板しただけ。そして秋に行なわれる若手主体のリーグ戦・フェニックスリーグではこんな出来事があった。

 相変わらずボールの抑えが効かず、ヒジは痛い。いつもと同じようにマウンド上で喘いでいると、スタンドからファンのこんな野次が聞こえてきた。

「本当は右投げなんじゃねぇの!」

 その言葉を聞いた瞬間、森のなかで何かが崩れる音がした。

 自分の人生とは、いったい何だったのだろうか。ごく普通の高校で、雨の日も雪の日も脇目も振らずに努力してきた日々。「北陸三羽ガラス」と評され、自由獲得枠でドラフト指名されるほどの自分をつくり上げてきたはずだった。しかし、そんな積み重ねも「本当は右投げなんじゃねぇの」という皮肉交じりの一言ですまされてしまう。

 もちろん、反論などできない。現実の自分はストライクがまったく入らないのだから。それでも、森は無念でならなかった。

「高校から社会人の2年目までは『オレのボールを見ろ!』と思いながら投げていたのに、イップスになってからは『見ないでくれ』と思うようになっていました」

 そして迎えた森のプロ3年目。自由獲得枠で入団した選手とは思えない「屈辱」と、あまりに早い「宣告」が待っていた。

(つづく)

※「イップス」とは
野球における「イップス」とは、主に投げる動作について使われる言葉。症状は個人差があるが、もともとボールをコントロールできていたプレーヤーが、自分の思うように投げられなくなってしまうことを指す。症状が悪化すると、投球動作そのものが変質してしまうケースもある。もともとはゴルフ競技で使われていた言葉だったが、今やイップスの存在は野球や他スポーツでも市民権を得た感がある。

関連記事