2018.10.24

【イップスの深層】森大輔が驚愕。
ありえないボールの握りをしていた

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Nikkan sports

 もちろん、その時点ですべてが終わったわけではない。二軍に合流した直後は、ブルペンである程度の投球ができた。スピードは145キロを計測。チーム関係者は「なんでこれで二軍に落ちるんだよ!」と驚いたが、それは森自身が聞きたいことだった。

 だが、間もなく実戦形式のシート打撃練習に入ると、マウンドに立った森はまたもや制御不能に陥った。チームの誰もが、森が重度のイップスに陥っていることを悟った。

「自分が自分じゃなくなっていました。つらかった......。本当につらかった」

 当時を振り返る36歳の森のまぶたには、涙が浮かんでいた。

「僕は高校時代から『自分がやってきたことは正しかった』という経験を繰り返しながら、成長してきました。そんな人間が過去の自分を否定されるように投げられなくなって......。本当につらかったですね」

 いろんなことを試してみた。1メートルの距離からネットスローを始め、投球フォームを作り直す。社会人時代には、外野のフェンスに背を向け、振り向きざまにフェンスに向かって壁当てをしたこともあった。不思議なことに、こうして自主練習に励んでいる間はヒジの痛みは影を潜めた。

「5メートルの距離も投げられるし、遠投もできるんです。でも、18.44メートルが投げられない。マウンドからキャッチャーまでの距離が怖いし、ヒジは痛くなるし......。社会人の2年目はマウンドで『こんなに近くでいいんですか?』と思うくらいだった距離が、プロではキャッチャーが100メートル先に見えるんです......」

 ファンから自分のプロ野球カードにサインを求められた際、恐るべきことに気がついた。そのカードは森のプレーシーンの写真だったのだが、野球選手としてありえないストレートの握りをしていたのだ。

「普通、ボールを握ったら、親指は人差し指と中指の下にきますよね。でも、僕の親指はボールの側面にあったんです。本当に無意識のうちに、ボールの握り方を忘れているんです」