移籍1年目で初のふたケタ勝利。榎田大樹はなぜ西武で開花したのか (3ページ目)

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Jiji Photo

「基本ができたプラス、阪神で7年間やってきたことが枝になり、そこに付け加えられて、今は結果が出ているのかなと思います」

 ニレ科エノキ属の落葉広葉樹であるエノキの木は、枝が多く、曲がりくねって伸びていくという特徴がある。榎田は長く険しい道を一歩ずつ、時間をかけて歩みを進めながら、多くの枝をつけて大木となった。

「名は体を表す」――。このことわざをまさに体現できた裏には、思考の筋道を立てて考えていることがある。

 たとえば今季飛躍した要因について、榎田は鴻江アカデミーで身体の使い方を学んだことが「すべてではない」と言い切る。それはあくまで一因で、そのほかにも動作解析や、さまざまなきっかけがある。冒頭で述べた歯の治療もそのひとつだ。

「右を噛みやすくて、『どうしても力んで前に突っ込む』と言われていました。噛むことで右への力が強くなるから、前に突っ込むのが早くなって。それが(歯の治療で)治ったからこそバランスがよくなり、鴻江先生の言っていた動きもできるようになったのかなと思います」

 多様な枝を増やし、それぞれの枝を伸ばしながら、榎田は新天地の西武で多和田真三郎(16勝5敗)、菊池雄星(14勝4敗)に続く勝ち星(11勝4敗)を残した。先発3番手として首脳陣の信頼を勝ち取り、CSファイナルステージでは第3戦で起用されることが予想される。

 2戦目までの星勘定は神のみぞ知るが、短期決戦で榎田が背負う役割は大きい。2本柱が順調に勝てば王手、仮にひとつでも落としていれば、その後の流れを大きく左右する一戦になるからだ。

 果たして初めての登板となるCSで、ペナントレースのように安定感のある投球を見せることはできるか。じっくりと時間をかけながら野球人生を切り開いた左腕が、檜舞台に上る。

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