移籍1年目で初のふたケタ勝利。榎田大樹はなぜ西武で開花したのか (2ページ目)

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Jiji Photo

 軸足で立ち、体重を残したまま逆足を前に移動させながら投げるのが、以前のイメージだった。右投手はそれでいいが、人間の身体には右側に重い肝臓があり、重心が右に寄りやすいため、左投手は「突っ込まないと投げられない」。榎田はこの理屈を知ったことで、投球のメカニズムがうまく機能するようになった。

「僕の場合、いかに力を入れないというか。よく言われるのが、『勝手に腕が振られるくらいの力でボールを投げなさい』と。(足で蹴ることで)地面からの反発力を得て、腕が勝手に振られてくれるというイメージで今はいます。右足が地面に着いたときに、(動きが)止まった反動で身体が回って、でんでん太鼓のようなイメージでボールが勝手に走ってくれるというか」

 3月17日、埼玉県所沢市で入団会見に出席した榎田は、「このオフはボールのキレを意識してきました」と語った。いわゆる左の技巧派投手は、新天地でブルペンに入り、実戦マウンドに上ると、「もしかすると、これかもしれない」という好感触を掴んだ。

「それこそプロに入って1、2年目に近い球の質かなと。昔ほどスピードは出ていないですけど、ボールの軌道、キレ、バッターの反応はそれに近いものなのかなと感じました」

 数値で表現すると、去年までは100%の力で腕を振ることで、100%のボールを投げようとしていた。それが今年は80%の力で腕を振る意識に変えると、100%のボールを投げられるようになった。

 球速140キロ前後のストレートの球質がよくなると、変化球にも相乗効果が生まれた。阪神時代にケガをしたことがきっかけで覚えたチェンジアップや、「どうすれば一軍で活躍できるか」と模索して習得したカットボールも活きるようになった。そうして今季10勝目を飾った9月19日の日本ハム戦後、報道陣に囲まれた榎田は自身の飛躍についてこう話している。

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