大瀬良大地がようやく本格化。恩師と積み重ねた大学4年間の研鑽

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • 西田泰輔●写真 photo by Nishida Taisuke

 圧倒的な強さでセ・リーグ3連覇を果たした広島。そのなかで、今季15勝7敗、防御率2.62と広島投手陣のエースとして、チームを優勝に導いたのが大瀬良大地だ。

 それまで右ヒジの内側側副靱帯損傷や右わき腹痛など、なにかと故障がつきまとい満足のいくピッチングができなかったが、昨年は7連勝を含む10勝2敗。ようやく本格化してきたと思ったが、防御率3.65と課題を残した。

 それが今シーズンは、巨人の菅野智之とともに最多勝となる15勝を挙げ、防御率も2.62。名実ともに"エース"にふさわしい結果を残して、プロ5年目のシーズンを終えた。

今シーズン15勝をマークし、巨人・菅野智之とともに最多勝に輝いた大瀬良大地今シーズン15勝をマークし、巨人・菅野智之とともに最多勝に輝いた大瀬良大地 今年の春の宮崎・日南キャンプ。天福球場のライト後方にある室内ブルペン。ピッチング練習をのぞいていると、次の組で投げる大瀬良がやって来て、彼の方から声をかけてくれた。

「またやりたいですね。ピッチング!」

 九州共立大時代、大瀬良とは何度か取材で会ったことがあり、大学4年の時には彼の全力投球を受けていた。その大瀬良が弾んだ声で"リップサービス"まで言うから、「ずいぶんと余裕が出てきたなぁ」と、頼もしく感じたものだった。

 6人ほどが並んで投げるブルペンの真ん中で、自分のペースでゆっくりと投げ込む姿が、「横綱の土俵入り」のように威厳に満ちていた。

 思い出す場面がいくつかある。

 大瀬良が2013年のドラフトで広島に1位指名された直後、九州共立大グラウンドのネット裏にある監督室に、仲里清監督を訪ねた。当時、大学野球の監督の取材をしており、仲里監督にもお願いしていた。

 監督室の扉を開けると、仲里監督は色紙に何か書かれていた。墨痕(ぼっこん)鮮やかに、力感あふれるタッチで書かれた文字が躍る。

「木鶏(もっけい)」

 その昔、時の王から「最強の闘鶏を育てよ」と命じられ鶏の育成を託された男が、なかなか王に鶏を返さない。

「ダメです。ほかの鶏を見ただけでいきり立ってしまいます」

「まだ早いです。ほかの鶏を威圧するように、自らの強さを自分から誇示してしまいます」

 ようやく男が王に鶏を返しにくると、こう言ったという。

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