一軍から三軍、プロから社会人...細山田武史にしかできないこと

  • 阿佐智●文 text by Asa Satoshi
  • 佐野美樹●写真 photo by Sano Miki

 チームが崖っぷちから大勝利を挙げたせいなのか、細山田武史は高いテンションで会見場に姿を現した。自身は試合に出なかったにもかかわらず、チームの勝利を心から喜んでいることはその表情に表れていた。

 ジャカルタで開催されたアジア大会。日本代表はメダルを争うスーパーラウンドの初戦でオールプロの韓国に1-5で敗退。決勝に進出するためには台湾との試合で4点差以上での勝利が条件だったが、見事5-0で下し、韓国への再挑戦権をつかみ取った。

ベンチで若手にアドバイスを送る細山田武史ベンチで若手にアドバイスを送る細山田武史 細山田がジャパンのユニフォームを着て国際大会に出るのは、実は初めてではない。早稲田大学時代、2年後輩の斎藤佑樹(北海道日本ハムファイターズ)らとともにチェコで開かれた世界選手権に出場し、銀メダルを手にしている。ちょうど10年前のことだ。

 そして今回、4年に一度のアジア大会で、細山田は再びジャパンのユニフォームに袖を通した。

「名誉以外の何ものでもありませんね。一生懸命やってきてよかったと思います」

 プロ野球選手としては成し得なかった日本代表メンバーに、社会人選手として選ばれたことを細山田は素直に喜んだ。

 大学生だった当時と、ベテランの域に差し掛かった今とでは、代表チームに対する構えは変わったかという問いに、細山田はこう答えた。

「大学の頃は目の前の1球に集中する、それだけでしたね。もう目の前のことと、自分のことしか見えてなかったと思います。試合に出る、出ないについては、代表の場合、今も昔もあまり気持ちは変わりません。チームメイトはライバルっていうよりも、ジャパンのユニフォームを着たらチームの結束が最優先。そこも変わりませんね」

 その言葉通り、この大会で細山田の声はベンチからグラウンドに響き渡っていた。大学ジャパンから10年。変わったことと言えば、試合に出なくても、フィールド全体に目が行き届くようになったことだ。

「今は自分のことを客観的に見られますし、他人のことに対して敏感になりました。キャッチャーというポジションのせいもありますけど、ピッチャーがいかにストレスなく投げられるかということを、社会人に入ってからテーマにしてやってきました。それが今回にもつながっているんじゃないでしょうか。あの頃は僕も若かったですから。今はいろんな経験を重ねてきたということです」

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