2018.08.30

【イップスの深層】「高卒→プロ」のはずが…
大人の事情で狂い始めた森大輔の野球人生

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

 高校を出たらすぐにプロに行きたかった。だが、森は周囲の説得に折れる形で、高校の監督に伝手があった中堅社会人チームがある会社に進むことになる。

 ドラフト解禁になる3年後、横浜から指名するという約束だった。自分を巡ってどれくらいの人と金銭が動いたかは知らない。しかし、周りでうごめく大人たちの思惑のなかには、「いきなり田舎の子どもがプロに進むのは不安だ」という父親の親心があったことも理解していた。

 ところが、社会人に進む直前、ある異変が起きる。それは入社予定だった社会人チームの活動規模が縮小され、クラブチーム化されたことだった。クラブチームが「金の卵」を預かるわけにはいかない。そう考えた社会人チーム関係者が奔走し、森は別の受け入れ先となる名門社会人チームの三菱ふそう川崎に入社することになった。

 それは偶然にも、森を見初めたベイスターズスカウト・高浦美佐緒(みさお)の出身チームでもあった。

「当時は私が裏で糸を引いたのではと言われることもありましたが、それは誤解です。でも、森にとっていきなり全日本クラスがゴロゴロいる名門に入ったことがいいことだったのかどうか......」

 しかし、当の森はあっけらかんとこう振り返る。

「自己紹介で緊張して、いきなり『石川県から来ました七尾です』と言ってしまって(笑)。『お前、七尾って名前なのかよ!』と突っ込まれて、すぐに打ち解けることができました」

 高卒1年目は主に体作りに終始し、秋には公式戦デビューを果たした。クラブチームを相手に1イニングを投げて3者連続三振。順調そのものだった。

 そして森は「天国と地獄」を行き来する、乱高下へと足を踏み入れていく。

(つづく)

※「イップス」とは
野球における「イップス」とは、主に投げる動作について使われる言葉。症状は個人差があるが、もともとボールをコントロールできていたプレーヤーが、自分の思うように投げられなくなってしまうことを指す。症状が悪化すると、投球動作そのものが変質してしまうケースもある。もともとはゴルフ競技で使われていた言葉だったが、今やイップスの存在は野球や他スポーツでも市民権を得た感がある。

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