2018.07.04

【イップスの深層】野球のプレーは、
どこまで「自動化」できるか?

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 ああしよう、こうしよう......という思考が、かえって動作のエラーを誘う。土橋は「イージープレーが苦手だった」と明かしたが、それは心理的な要因よりも手首で引っかけるというメカニズムの要因が大きかった。

 そして、土橋が取り組んだのは「野球に対応するための訓練」だった。

「人間だから、動作の中に思考が入り込むことはあります。でも、僕は『この場面はこう動こう』という練習をすごくしていました。野球のプレーは待ってくれません。考える前に瞬時に体が動いてくれる訓練をしたんです」

 こんなゴロのときはグラブをこう出して、この角度から投げよう......などと、動きのバリエーションを反復練習によって磨き上げた。これはまさに「動作の自動化」だろう。

「今の野球は練習量が少ないから、知識はあるけれど体は反応してくれない。そんな『頭でっかち』になっている印象がありますね」

 2018年より、土橋は一軍内野守備走塁コーチとして再びユニフォームを着ている。今春のヤクルトキャンプは連日、長時間にわたる練習が課せられたが、ヤクルトの選手たちは土橋コーチによって知らず知らずのうちに「動作の自動化」を習得していたのだろう。

「動作の自動化」というと、とたんに野球が無機質なものに感じられるかもしれない。だが、人間の豊かな思考や感情がイップスの種になっているという側面も考えなければならない。

 最後に土橋はこんなことを語っていた。

「イップスじゃないのに、周りから『イップス』とひとくくりにされてしまうことで、『俺はイップスなんだ......』と追い込まれてしまう人もいると思うんですよ」

 イップスは間違いなく存在する。だが、「送球難=イップス」という呪縛から解かれ、のびのびと腕を振ってプレーする選手がひとりでも多く現れることを願ってやまない。

(この回おわり)

※「イップス」とは
野球における「イップス」とは、主に投げる動作について使われる言葉。症状は個人差があるが、もともとボールをコントロールできていたプレーヤーが、自分の思うように投げられなくなってしまうことを指す。症状が悪化すると、投球動作そのものが変質してしまうケースもある。もともとはゴルフ競技で使われていた言葉だったが、今やイップスの存在は野球や他スポーツでも市民権を得た感がある。

証言者・森大輔の回はこちら>>

◆藤浪晋太郎が、コントロール、フォーム、今の心境を語るインタビュー>>

◆「お前ら負け犬か」石井コーチの檄からヤクルトが王者になっちゃった>>

関連記事