2018.05.11
【イップスの深層】
「難しいプレーは簡単なんです」
と土橋は言った

- 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
- photo by Kyodo News
「なるべく守備は何も考えずに、ストレスなくできる方がいいんです。バッティングは相手があることだから、打てるかわからない部分が多いじゃないですか。守備に不安があると、守備も打撃も両方考えなきゃいけなくなる。それはきついですよね。だからレギュラーとして出ている選手は、なるべく守備で考えず、打撃で考えるようにしている選手が多いはずですよ」
とはいえ、土橋の「引っかけ過ぎる」という送球のクセは完全に改善されたわけではなかった。本人の言葉を借りれば「8対2で引っかかっていたのが、2対8に減ったような感じ」だという。つまり、本人の感覚としては「2割は引っかけていた」ということだ。
しかし、多くの野球ファンには、そんな印象はないのではないか。その疑問を本人にぶつけると、土橋はさらに意外な事実を打ち明けた。それは「土橋勝征」というプロ野球選手のイメージが形作られていく過程に潜んでいた、重大な秘密だった。
(つづく)
※「イップス」とは
野球における「イップス」とは、主に投げる動作について使われる言葉。症状は個人差があるが、もともとボールをコントロールできていたプレーヤーが、自分の思うように投げられなくなってしまうことを指す。症状が悪化すると、投球動作そのものが変質してしまうケースもある。もともとはゴルフ競技で使われていた言葉だったが、今やイップスの存在は野球や他スポーツでも市民権を得た感がある。