「ライオンズ七不思議」、貧打の炭谷銀仁朗が3割バッターに変身の怪 (2ページ目)

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Jiji Photo

 押し出されつつある格好の炭谷は、2017年の春季キャンプ前、こんな話をしていた。

「意識のなかで『対森』とかはないですよ。たとえば嶋(基宏/楽天)さんが移籍してきたとしても、僕は自分の課題を克服してマイナス面を減らすことと、プラス面をもっと伸ばすことをやっていけば、自然と自分のレベルは上がるわけですから」

 城島健司に憧れ、捕手として彼以来のフルイニング出場をずっと目標にする炭谷が、課題として真っ先に挙げたのが打撃面だ。高校通算48本塁打を放って「強打の捕手」の触れ込みで入団したものの、過去10年以上なかなか打てなかったバッターが、どうすればヒット数を増やすことができるのか。

「正直、わからないですよ」

 そう吐露した一方、2017年は「打率2割4分~5分を目指す」と宣言し、有言実行で.251を記録している。

 そして今季、打率.360――。

 あくまで出場8試合28打席時点の話だが、「打てる捕手」の成績を残しているのだ。

「今、感覚が合っていますよね。ボールの見え方と、その方向にバットが出ています」

 そう振り返った4月6日のオリックス戦では7回、無死三塁から相手先発の西勇輝が内角に投じたボールをライト前に技アリで弾き返した。

「今までだと、あの球はボテボテのゴロになっていたかもしれません。右方向に打とうとしたわけではないけど、『こういう球をこう打とう』という考えと、目で見たものと、タイミングの感覚が合っています」

 実は昨年から、炭谷の打力アップは担当記者やファンの間で「西武七不思議」のひとつだった。毎年打率2割ライン前後の「守りの捕手」は突然、なぜ打率を急上昇させているのか――。

 各社の記者が尋ねるたび、「シーズンが終わって、同じ成績が残っていたら話します」と質問をかわしてきた。ペナントレース終了後に聞かれると、「1年で終わっては意味がない」と言葉を濁す。守備について饒舌(じょうぜつ)に語る捕手は、打撃の話になると「聞かないでください」と貝になった。

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