もうパンダじゃない。「客寄せ松坂大輔」、熟練の投球にファン大熱狂 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Kyodo News

 ただ、そのリズムが一定にならないようにちょっとした変化はつけてますね。投げるタイミングにも緩急をつけてますし、キャッチャーからのボールを受け取ったあと、まっすぐ戻ることもあれば、ぐるっと回って横から戻ることもある。マウンドの後ろまで下がってリセットすることもあります。テンポをよくすることばかり考えてしまうと同じリズムになってしまうので、そうやって変化をつけて投げ急ぐことのないように気をつけています」

技はいくつも持っている。しかし、ホークスのときは肩が痛くて、投げることができなかった。痛みの原因を特定することもできず、忸怩(じくじ)たる思いを抱えながらリハビリを続けた。そのリハビリが正しいほうを向いているのかさえわからないまま、できることを尽くしても痛みは消えない。

 ようやく肩がハマった感覚を得たのが、去年の秋。誰もが、松坂はもう終わりだろうと決めつけていた最中、松坂だけが、肩の痛みがなくなったときの自分のボールに対する自信を失っていなかった。だからホークスからの育成契約のオファーを断り、投げる場所を探そうとしたのである。世界中、どこで投げる覚悟もできていた。あまりそういうわかりやすいことを言いたがらない松坂が、こんなふうに話していたことがある。

「野球が好きで好きで仕方がないところは、野球を始めてからずっと変わりません。ケガをしたり、イヤなことがあって、嫌いになりかけたこともありましたけど、本当に野球が嫌いだと思ったことは一度もありません」

タイガースとの試合は6回を終わって松坂の球数は101球。誰も続投はないと思っていたら、1-2とドラゴンズが1点ビハインドの7回表、松坂がマウンドに上がる。そしてツーアウト満塁のピンチを背負うと、ナゴヤドームのスタンドからは期せずして拍手が沸き起こった。代打の上本が打席に立ったその初球、ストライクを取ると、それだけで球場は大歓声に包まれる。とても負けている試合とは思えない。この盛り上がりについて、松坂は言った。

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