【イップスの深層】土橋勝征が悩んだ送球難。「でも僕はイップスじゃない」 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Jiji Photo

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 プロではまずショートとして養成されたが、送球難はしばらく治らなかった。

「二軍で守備練習をするとき、一塁にネットを立ててそこに送球するんですけど、他の人よりネットに入る確率が低いんです。試合中のエラーも送球エラーが断然多い。練習すればうまくなると思ってアホみたいに投げていましたよ。コーチもつきっきりで技術的なアドバイスをくれるのですが、なかなか改善できなかったですね」

 そして、土橋は一拍置いてからこう続けた。

「そこで『土橋はスローイングが悪い』というレッテルを貼られた感はありましたね」

 送球ミスが起きるたび、周囲は「また土橋か」とため息をつく。うまく投げられるケースもあるのだが、プロは送球ミスをしないことが「当たり前」とされる世界である。ひとつのミスが周囲に及ぼす影響も大きく、たとえ回数は少なくても「送球が下手」というイメージがつきやすい。

「そういう目で見られていたことで、『俺は送球が悪いな......』と思い込んでしまったところはあると思います。ボール回しをしていて、先輩に向かって投げる瞬間に『うっ』と詰まって暴投したり、トスバッティングをする先輩に投げるのは憂鬱でしょうがなかったな(笑)。同期や年下なら『悪い』ですみますけど、先輩には謝らないといけない。申し訳なさがつきまといますよね。徐々に精神的に『ヤバイな......』となっていきましたね」

 ミスをきっかけに、精神的に追い込まれる。それはイップスの初期症状かもしれない。だが、ここでポイントになるのは、土橋はいつもキャッチボールやシートノックで一定の割合で暴投することがあったということだ。また、「『投げ方がわからなくなる』というようなことはなかった」と本人は証言する。

 イップスかどうかはさておき、送球難を解消できないまま、土橋のプロ生活は4年が経過していた。

 入団時に守っていたショートは、一軍で若い池山隆寛がレギュラーに定着したばかり。角富士夫の衰えがみえるサードに転向するが、今度は話題のルーキー・長嶋一茂が入団してきた。ならばとセカンドに挑戦するが、とどめとばかりに新人・笘篠賢治が新人王を獲得する大活躍。本人も苦笑い混じりに「路頭に迷った」と振り返る、まさに八方塞がりの状況だった。

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