日本一から最下位への転身。鬼軍曹・
鳥越コーチはジョークから始めた

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Sportiva

 個人差はあったが、声をかけられた選手は全般的に嬉しそうだった。新任コーチとしては、昨年87敗もしたチームなりのネガティブな反応もあるのでは、と心配していたが杞憂(きゆう)に終わった。みんな自分を受け入れてくれているんだな、という実感を得た。

「だいたい、他愛もない話から入るんです。安田(尚憲)っていうルーキーがいたら、『お父さん、何歳?』って聞いて、『よかった、年上で』とか、話しながらプライベートのことも聞いて。あとは結婚しているかどうかも知らない選手に、『え? お前、結婚してんの?』とか。『え? お前、そんな老けてるのにまだ23歳? ごめんごめん、オレ、お前のこと全然、知らねえな』とか(笑)。そういう感じで、笑いですよね。笑顔を見せてもらいたいがために、いろんな冗談を言いましたね」

 ある程度、選手たちの性格を把握し、あらためてグラウンドでの動きを見ていくと、ひとつの思いが湧き上がってきた。

「僕がキャンプで思ったのは、『なんで去年そんなに負けちゃったの?』というぐらい、悪くないということです。だから『お前ら、いけるやん。全然、悪くない』ってみんなに言いました。いい子たちばっかりなんで......。『なんで、そんなに負けちゃったの?』って、逆に不思議でしたね」

 必要以上に敗因を求めて過去に戻るのではなく、未来に向かって勝つためにどうするか、それを優先して実行する方がよほど大事と、鳥越は思い直した。

「じゃあ、突き抜けて勝つだけの力があるかといったら、まだそこまでのポテンシャルはないと思います。でも、やるべきことをきっちりやっておけば、それなりに戦えるものはあるし、そんなに負けないだろうと。とにかく、勝率5割で食いついていくぐらいはできるだろうというレベルだと思うんです。プロ野球のペナントレースというのは、どんなに強いところでも60ぐらいは負けます。そのなかで、どう勝ちと負けの差を少なくして、どう勝ちを先行させていくか、だけなので。だから実際、いけると思いますよ」

つづく

(=敬称略)

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