『キャプテン』の近藤を地でいく男・鈴木博志は中日の救世主となるか (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 鈴木は磐田東高を卒業し、ヤマハに3年在籍したものの、実質プレーができたのは2年しかない。何しろ、入社した時点ではボールを投げることすらできなかったのだ。鈴木は当時をこう振り返る。

「高校で右ヒジを疲労骨折して、手術したんです。だから最初の年は周りの人も『なんでこんな使えない高校生を獲ったんだ?』って思っていたと思いますよ(笑)」

 リハビリとトレーニングに明け暮れ、ヒジが完治した1年目の秋、試運転で登板したマウンドで鈴木に衝撃が走った。今まで味わったことのないスピード感のあるボールが腕から飛び出した。球速は148キロ。高校時代よりも5キロも速くなっていた。

 社会人2年目、3年目も実戦で投げられるようになったと言っても、圧倒するような実績を残したわけではない。とてつもない剛球を投げ込んだかと思えば、突然ムラッ気が顔を出して打たれるシーンも少なくなかった。

 それでも美甘監督の言う「社会人のエース」と呼ばれる前に、鈴木はその才能を十分に見せつけてしまった。最速157キロを投げるアマチュアの20歳が放っておかれるはずもなく、昨秋のドラフト会議で中日に1位指名されたのだった。

 社会人出のドラフト1位、しかも近年下位に低迷している中日ともなれば、即戦力級の働きを求められてもおかしくはない。しかし、現段階での鈴木はありあまる伸びしろを残した未完成の素材である。その点で一抹の不安があったのだが、鈴木のこんな一言にそれが杞憂であることを悟った。

「(森繁和)監督の言われることと僕がやろうとしていることが一緒なので、大丈夫です」

 森監督が鈴木にかけている言葉はこうだ。

「コースを狙おうとせず、強いストレートをストライクゾーンに投げ込んで、まず早めにワンストライクを取りなさい」

 この言葉に、いかに森監督が鈴木を理解し、その持ち味を発揮させようと心を砕いているかが伝わってくる。

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