2017.12.26

【イップスの深層】横浜時代に
中根仁が考えた「送球難がバレない秘技」

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

 他にも中根は「イップスになりにくい」と聞いたサイドスローも試すなど、対処を重ねた。こうした水面下での試行錯誤があったからこそ、中根は華々しいプロの舞台で大きな痛手を負うことなく活躍することができたのだろう。

 現役晩年の2002年、二軍キャンプで調整していた中根は、ある高卒ルーキー内野手とキャッチボールをする。

「指先にかかったボールをガンガン投げ込んでくるんです。先輩だろうとお構いなしで、指に引っかけ過ぎることもない。驚きましたよ。緊張とか遠慮とか、そういう感覚がないんだろうな。こういうヤツはイップスにならないんだろうなぁと思いましたね」

 そのルーキーとは、ドラフト5巡目で入団した吉村裕基だった。のちに一軍で34本塁打を記録(2008年)するほどの中心打者になり、現在はソフトバンクに所属している。

「そんな吉村でも、送球が悪いということで外野に回されるんですから……。いかにスローイングが難しいか、ということですよね」

 中根はそう言って、やはり爽やかに笑うのだった。

(つづく)

※「イップス」とは
野球における「イップス」とは、主に投げる動作について使われる言葉。症状は個人差があるが、もともとボールをコントロールできていたプレーヤーが、自分の思うように投げられなくなってしまうことを指す。症状が悪化すると、投球動作そのものが変質してしまうケースもある。もともとはゴルフ競技で使われていた言葉だったが、今やイップスの存在は野球や他スポーツでも市民権を得た感がある。

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