2017.12.26

【イップスの深層】横浜時代に
中根仁が考えた「送球難がバレない秘技」

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

 厳密な定義づけは難しいにしても、中根は「送球難」と「イップス」は別ものであり、その上で自分はイップスだという自覚症状があった。それでも中根のイップスが露見しなかった理由は、キャリアを重ねるなかでイップスをごまかす術(すべ)を会得していたからだ。

 中根はその秘技を教えてくれた。

「イップスになると『腕を大きく回せ』という人もいるんですが、僕は違うと思う。大きく回していると自分の腕がどこにあるかわからなくなって、ますますおかしくなる。だから僕はボールを捕ったら、そのまま回さずにボールを耳まで持っていくんです。キャッチャーみたいにね」

 そして、中根はこう続けた。「そこからシュートを投げるんです」と。

「シュートを投げるイメージだと、ほどよく指がボールにかかって離せるんです。だいたいこれで復活しますよ。ピッチャーはボールが抜けてデッドボールになるのが怖いでしょうが、野手はこれでいいと思います」

 野球選手は本来、きれいな回転のボールを投げたいと考えるものだ。野手ならばなおさらで、相手の捕りやすい球質を追求して、素直な回転を目指していく。

 だが、送球イップスになると、自分がどこでリリースしていいのかわからなくなる。その結果、ボールがすっぽ抜けたり、ボールを引っかけたりし、球筋が安定しない。精神的な不安がますます悪循環になり、選手は抜け出せない泥沼の深みへと足を踏み入れていく。

 そこへ中根の言う「シュート」は逆転の発想ともいうべきアイデアだろう。かつてインタビューした岩本勉をはじめ、「ストレートより(スライダーなど)指にかけるタイプの変化球のほうがコントロールはつけやすい」と証言するイップス経験者は多い。もちろん感覚は人それぞれだが、送球イップスに悩む選手は試す価値のある方法ではないか。