鉛のベストで猛練習。ヤクルト秋季キャンプはリアル「スポ根漫画」だ (5ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by HISATO

「ロングティーはパワーだけでなく、体全体をしっかり使わないとボールが飛ばないんです。なので、自然と体がきつくなるんです」(廣岡)

 また山田、廣岡をはじめ、ひと箱目は鉛入りのベストを着用してスイングしていた。その光景はまるで"スポ根漫画"の世界だ。石井コーチが静かな口調で言う。

「無駄なひと振りなんてないんですよ。高校時代に血へどを吐くような練習をしたから『プロでは普通の練習でいいだろう』とはなりません。アマチュアのベストが集まるのがプロ野球です。その世界でベストを目指すなら、また厳しい練習を積んでいかないといけない。時代が進み、無駄な努力を省く傾向にありますが、無駄は必要なんですよ。やらないと何が正しいのかわからない。無駄に思える努力が、人によっては無駄でないこともある。合理的な部分を残しながら、昔ながらも練習も必要だと思っています」

 最後に残った廣岡がラストの1球をスタンドへ放り込んだ。選手、コーチ、スタッフ、ファンから一斉に拍手が沸き起こる。その後、チーム全員で外野に転がった2000個近いボールを回収。日も暮れて、球場の照明がキラキラと輝いている。

 ホームへ引き上げてくる選手たち。1日の「大団円にふさわしい光景だな」と見とれていたのだが、ホワイトボードにも書いてあったように、次には連続ティー100×2が選手たちを待ち受けていたのである。

(後編につづく)

◆山﨑武司はヤクルトドラフト1位・村上宗隆をどう評価していたか?>>

◆カープの貧打を変えた石井琢朗コーチの教え。ヤクルト打線もできるか?>>

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