2017.11.28

【イップスの深層】 中根仁は言う。
カツラと同じで隠してもバレている

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

 筆者はつい最近、人に教えられるまで、中根がイップスだったことは知らなかった。球界に広く知れ渡ることはなかったのかもしれない。だが、本人にしてみれば野球人生にかかわる、重大な弱点だったことは間違いない。

 ところが、そんなデリケートなテーマであっても、中根の語り口は軽やかで、表情は晴れやかだった。生来の明るさはあるにしても、現役生活を退いてもう14年が経つだけに、時間の経過が中根の傷を癒したのだろうか。

 そんなことを考えていると、中根の口から「近鉄じゃなかったら、もっとひどいイップスになっていたかもしれない」というショッキングな言葉が飛び出した。その真意を問うと、さらに意外な言葉が続いた。

「みんなお酒が好きでしたから(笑)。野球が終われば、みんなで酒を一緒に飲んで騒いでいました。金村(義明)さん、山下(和彦)さん、大石(大二郎)さん、光山(英和)さん、石井(浩郎)さん......。みんなにかわいがってもらって、楽しくワイワイ酒を飲むことで救われていました」

 個室でひっそりと飲むのではなく、人目をはばかることなく大衆居酒屋で酒盛りを楽しんでいたという。たとえチーム状況が悪くても、自重するという感覚もない。中根は「週刊誌に追われることもありませんでしたから」と笑いながら振り返る。

 かつて中根と同時期に近鉄に所属し、セットアッパーとして活躍した佐野慈紀(当時は重樹)から、こんな逸話を聞いたことがある。関東でのビジターからの帰路、新幹線の車内でバファローズ一行の酒盛りが始まると、新大阪に到着するまでに車両の端から端までビールの空き缶がズラリと並んだという。当時の近鉄にはそれだけの酒豪が集まり、豪快なチームカラーだった。