【イップスの深層】 中根仁は言う。カツラと同じで隠してもバレている (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

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 プロのレベルからすれば、何でもないプレーのはずだった。マウンドにいた同年齢の木下文信からは「何しとんねん、中根!」と叱責される。中根は「トレーバーが捕球した瞬間に見せた、あの苦しげな表情が忘れられない」という。

 この日以降、中根がサードを守ることはなかった。

 だが、外野を守っていてもイップスが改善されるわけではない。むしろその症状は徐々に悪化していった。

 本人の記憶ではプロ入り4年目か5年目のある日。遠投をしていた中根は、チームの後輩からこんな指摘を受ける。

「中根さん、テークバックでボールが上を向いたままですよ」

 投球動作の際、テークバックと呼ばれる予備動作で、利き腕の手のひらは下を向き、その下にボールがあるのが一般的だ。だが、中根のテークバックは手のひらが上を向き、その上にボールが乗るという、非常にぎこちない形になっていた。

 そして何よりショックだったのは、本人にその自覚がまるでなかったことだ。

「『えぇー、なんでこんな形になってるの?』って。自分でも驚きました。でも、たしかに腕を大きく回していると、腕がどこにあるのかわからなくなってくるんです」

 そして、印象深いプレーがあったのは、センターを守っていたグリーンスタジアム神戸(現・ほっともっとフィールド神戸)での試合だった。

「右中間寄りのゴロを捕って、ランナーが一塁にいたのでサードに送球しました。そうしたら、そのボールが三塁側ベンチの上まで届いてしまった。よく言う"すっぽ抜け"じゃないんです。ガチっと指にかかったうえでの大暴投でしたから。プロで一番の大遠投だったかもしれませんね(笑)」

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