打って、走って、送って、守れる男。
今宮健太は「野球小僧」に生まれた

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 まさに、今宮ならではのプレーだった。こうした様々な好プレーを生む大きな要因に、深い守備位置がある。これを可能にするのは、フットワークのよさはもちろん、かつてマウンドから154キロを投げ込んだ強い肩があってこそ。

 以前、一子さんからこんな話を聞いたことがある。

「赤ちゃんのときに(おもちゃの)ガラガラを渡すと、普通の子はそれを振って音を楽しむのに、健太はすぐに投げるんです。それを見て『ああ、この子は野球をやるために生まれてきたんだ』って思ったんです」

 ただ、今回の日本シリーズに関していえば、「打者・今宮健太」の部分では、本人も物足りなさが残ったはずだ。先にも書いたが、今シーズンの今宮は本塁打、打点で自己最多の記録。思い切りのよさと大きなスイングは高校時代を思い出させた。

 また左投手にめっぽう強く、対右投手の打率.242に対して、対左投手は.352と高打率を残している。その対左投手について、忘れられない思い出がある。

今宮が高校3年のとき、打倒に燃えていたのが花巻東のエースで高校ナンバーワン左腕と評されていた菊池雄星(西武)だった。

3年春のセンバツ2回戦で菊池と対戦した今宮は、第1打席でヒットを放つも、あとの打席は見逃し三振、ファーストゴロ、セカンドゴロ。打ち取られたのはいずれも内角に食い込んでくるストレートで、今宮はまともにとらえることができず、チームも完封されて敗れた。

「100%投げてくるとわかっていても打てなかった。スピードも威力もあった」

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