2017.11.07

【イップスの深層】強肩外野手・中根仁が
「カットマンに返球できない」

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

 戦々恐々とする本人の想像通り、試合後、中根はコーチに「お前の肩なんか見たくないんじゃ! 何回打者走者を二塁に進ませとるんじゃ!」と激しく叱責され、そのままファーム行きを通告される。

 そして、中根は本格的に泥沼へと足を踏み入れていく。

 外野を守っていて、打球が飛んでくる前からムズムズと落ち着かない。何の変哲もないヒットの打球が飛んでくる。捕球し、カットマンを見る。体が硬直する――。

 ベースカバーに入った選手に思い切り送球することは簡単なのに、近距離のカットマンにピンポイントで返すことができない。当たり前にできる選手には極めて低次元に思えることだろうが、中根は「プロはこれができないといけないのか......」と絶望した。

 そして中根が取った窮余の行動は、「二塁ベースまで走る」だった。

「ベースまで5メートルくらいの位置までダッシュで近づいて、あとはペロンと軽く投げる。左中間とか、ランナーに進塁を許しそうな遠い距離なら、むしろ全力で投げられるので余裕なんです」

 そうして何とか切り抜けていくうちに、中根は5月になって一軍に呼ばれる。ところが、ここで中根のスローイングはますます悪化の一途をたどる。

「これまでセカンドベースまでワンバウンドで返すことはできていたのが、内野の先輩に『もっとピッと返せ!』と怒られてしまって......。力んで暴投を投げるのも嫌だと思っているうちに、投げられなくなってしまったんです」