飯田の超絶バックホーム、イチロー対策...。
日本シリーズ舞台裏の秘話

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi
  • photo by Kyodo News

 その試合、ヤクルトは1対0で勝利。もしあのプレーがなければ逆転されていただろうし、その後のシリーズの行方も違ったものになっていただろう。

 また、1995年のオリックスとの日本シリーズも印象に残っている。あのシリーズはまさに"心理戦"だった。オリックスの顔であるイチローをいかにして抑えるか。その1点に尽きた。

 シリーズ前にデータを分析したところ、「真ん中高め、ややアウトコース」がイチローの手が出やすく、かつヒットになりにくいコースだというのがわかった。しかし、高めのボールというのはコントロールミスすれば痛打を食らう危険なコースである。それに、イチローほどの打者がシーズン中のデータ通りに手を出してくれるのかどうか。

 すると野村克也監督がこんなことを言い始めた。「よし、テレビを使って煽っとくか」と。それからは取材されるたびに「イチローは高めに弱い。そこを突く」と公言し始めたのだ。まさか本当のことをテレビで言うとは思ってもみなかった。しかし野村監督は「人間、本当のことを言われるほど、意識するものだ」と言い放った。

 案の定、それが見事にはまった。第1戦、ヤクルトの先発はテリー・ブロス。2メートルを超す大男で、しかも150キロ近い真っすぐを持っていたから、高めの球に力強さがあった。だから、追い込んだら高め。その一辺倒で攻めた。3打席凡退のあと、4打席目にヒットを許したが、この日の対戦でタイミングを狂わせ、その後の試合でも完璧に封じ込むことができた。

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