ドラフト1位の引き際。あの豪腕投手は、
なぜ27歳で引退を決めたのか

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News


――誰かの意見を聞くことでヒントを得ることがありますが、アドバイスを受けてさらに混乱する場合もありますね。

増渕 意見を聞いたら、それを取り入れようとします。聞くだけ聞いてスルーすることは、僕にはあまりできませんでした。だからというわけではないと思いますが、いろいろ考えすぎて、また自分を見失ってしまいました。

――2013年は5試合に登板し0勝。2014年の開幕直後、北海道日本ハムファイターズへのトレードが決まりました。

増渕 自分自身がわからなくなって、イップスになってしまいました。僕の場合、右ひじを痛めたことが少し影響していると思います。故障した箇所を意識しすぎ、コントロールを考えすぎて、自分の本来の腕の振りがわからなくなってしまいました。フォーム自体は変わっていません。ただ、腕の振り方、力の入れ具合が......。ピッチングの感覚をなくしてしまったのです。

――「どこにボールがいくのかわからない」という状態ですか?

増渕 ピッチング以外のフィールディング、バント処理や牽制球は問題ありません。遠投もできます。でも、マウンドに立ってプレートを踏んで「さあ、投げよう」とすると、ボールを持っている感覚がなくなって......始まっちゃうんですよね。

――原因に心当たりはありませんか?

増渕 直接的な原因は思い浮かびません。バッターにぶつけたことでもない。でも、気にしすぎて、キャッチボールもおかしくなりました。相手の胸にしっかり投げようとして「あ、抜けそう」と思って、指にひっかけすぎたことがあります。きっかけといえば、それですね。その負のイメージが頭に残ってしまったのだと思います。

 もう、ごまかし、ごまかし投げていました。不思議なことに、変化球は大丈夫でした。ストレートだけがうまく投げられない。投げられることは投げられるのですが、自分のストレートではない。当然、球速も落ちました。

4 / 7

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る