2017.09.25

【イップスの深層】
給料0円でも、
一二三慎太が再び投手に挑むわけ

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sportiva

 貯金を切り崩し、独立リーグの練習生という立場で、変わらぬ痛みを抱えながらリハビリに費やす日々。なぜ、そこまでやるのか。一二三を突き動かすものは何なのか。

「あの指先の『バチン』という感触。あれがほしいんです。それさえあれば、絶対にいける。そういう自信はあります。今もキャッチボールをしているんですけど、その感覚さえあれば、もうどこから投げてもいいので。バチンとくるならオーバーだろうがサイドだろうが、アンダーだって何でもいい。別にどこから放らなアカンというわけではないですから」

 肩の状態と相談しながら、50メートルほどの遠投をこなす日もある。そして、時折「バチン」という感覚が指先に宿る瞬間もあるという。

「そういう日は楽しいです。『やべぇ!』と(笑)。ただ、バチンと来る日もあれば、『おかしい』という日もあるので。だから、その日その日で違いますね」

 東海大相模の門馬敬治監督には、手術する前後に報告をし、リハビリ中にも何度か学校に顔を出したという。「イップスは大丈夫か?」と心配する門馬監督に、一二三は「まあ、大丈夫じゃないですか」と楽観的に答えたという。一二三は胸に手を当てるジェスチャーを見せながら、こう笑った。

「僕のイップスは、こっち(ハート)やなくて、肩の痛みからなんで。こっちやったら、たぶんあきらめてます」

 そして、一二三は最後にこんな本音を漏らした。

「もう当たり前になっていますけど、肩が痛くなって8~9年くらいですね。いつも思いますよ。『朝起きたら、肩治っていないかな』って(笑)」

 失われた指先感覚を求めて――。一二三慎太の挑戦はこれからも続く。

(つづく)

※「イップス」とは
野球における「イップス」とは、主に投げる動作について使われる言葉。症状は個人差があるが、もともとボールをコントロールできていたプレーヤーが、自分の思うように投げられなくなってしまうことを指す。症状が悪化すると、投球動作そのものが変質してしまうケースもある。もともとはゴルフ競技で使われていた言葉だったが、今やイップスの存在は野球や他スポーツでも市民権を得た感がある。

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