2017.09.25

【イップスの深層】
給料0円でも、
一二三慎太が再び投手に挑むわけ

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sportiva

 そして10月になると、知らない番号から着信があった。一二三は「来たな」と予感めいたものがあったという。編成担当者からホテルに呼び出された一二三は「来季は契約を結ばない」と戦力外通告を受ける。すでに野手としての見切りをつけていたため、トライアウトは受験しないと決めていた。

 現役引退――。その四文字が頭をよぎる。だが、一二三には一度は捨てたはずの感情が蘇っていた。

「このまま野手で終わるのはイヤやったんです。でもピッチャーをやろうと思っても肩は痛いし。じゃあ、オレ終わりかぁ……とも考えていたんですけど。この痛みをとにかく治したい。手術すれば痛みが消えるんちゃうかなと思って。治ったらピッチャーをやろうかなと」

 そして2017年。一二三の姿は石川県にあった。身分は石川ミリオンスターズの練習生。といっても給与が発生するわけではなく、無給だ。一二三は「貯金しておいてよかったです。結婚していたらムリですよ」と笑う。

「僕はリハビリのために来ているので。施設を使って練習させてもらうのは、チームのみんなと一緒ですから、ありがたいですね」

 一二三の右肩には小さな傷跡がある。昨年11月に受けた手術痕だ。内視鏡手術だったため、その跡は小さく目立たないが、この内側から響いてくる痛みに一二三は高校2年の冬から苦しめられてきた。

 そして、その痛みは今も続いている。

「肩の手術を甘く見ていました。今もめっちゃ痛いですね。でも、痛む箇所は治したはずですし、医者からも『1年半はかかる』と言われています。自分でもそこまでリハビリしていかないと、わからないことなので……」