2017.09.25

【イップスの深層】
給料0円でも、
一二三慎太が再び投手に挑むわけ

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sportiva

 野手転向1年目はウエスタンリーグ(二軍)で33試合に出場して、打率.178、0本塁打。守備は主に外野、一塁を守り、全力で送球しないため肩への影響はさほどなかったが、肝心の打撃に少なからぬ影響を及ぼした。

「痛すぎて、右手がバットにひっついていけないんですよ。バットに当たった瞬間に右手を離して逃がすしかない。当たるまでは大丈夫なんですけど、その先がムリなんで」

 いわゆる「押し込む打撃」が一二三にはできなかった。それでも、翌2013年にはウエスタンリーグで65試合に出場、打率.255、4本塁打と成長の跡を見せた。夏場にはフレッシュオールスターの出場も決まり、首脳陣からは「オールスター明けには上(一軍)に行くぞ」と言われていた。本人も「ボールが止まって見えましたから」と手応えをつかみかけていた。

 だが、好事魔多し。一二三はフレッシュオールスター直前の試合で左足をフェンスに強打し、剥離骨折してしまう。結果的に野手としては、この年がキャリアハイとなった。打撃練習では気持ちのいい打球が飛んでいくのに、試合になるとからっきし。そんなシーズンを繰り返した。一二三は「練習はいいんですよ」と言って、こう続けた。

「いつも言われていましたよ。『お前、練習なら3億円プレーヤーや』って(笑)。練習はいいんですけど、試合はやっぱりちゃうんで。自信はまったくなかったです」

 また、野手となり投手時代のような全力でスローイングをする機会はなくなったものの、相変わらずイップスは顔を覗かせた。